高校生のシゴト力 ~地域を売り出せ~

 高校生の自立心やチャレンジ精神、創造力、コミュニケーション力などを育む手段として「起業教育」が見直されている。次世代を支える高校生が取り組む「ふるさと」を生かしたビジネスは地域が抱える問題の解決と振興に大きな力となっている。福島民報社は、東北と新潟県の有力紙八社共同で「高校生のシゴト力~地域を売り出せ~」をテーマに高校生ビジネスの取り組みと地域のつながりを紹介する。

小高産業技術高(福島県・南相馬市)11月25日付

手作りのポップ広告を商品棚に飾り付ける生徒=10月23日、東町エンガワ商店

 福島県南相馬市小高区の小高産業技術高(鈴木稔校長、生徒五百二十七人)は、区内の仮設商業施設「東町エンガワ商店」(常世田隆=とこよだ・たかし=マネジャー)の協力を得て、商品の仕入れや販売方法を学ぶ特別実習に取り組んでいる。消費者のニーズを考えて商品を仕入れ、思わず手に取りたくなるような陳列で販売する。客の目を引くポップ広告も添え、商店の売り上げアップに貢献している。

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 小高産業技術高と東町エンガワ商店がある小高区は、東京電力福島第一原発事故に伴い、二〇一一(平成二十三)年に全域が避難区域になった。原発事故から五年四カ月後の二〇一六年七月に避難指示が帰還困難区域を除き解除され、十月末現在、同区の居住者は二千九百七十七人で、原発事故前の約二十三%になっている。

 同校は、原発事故からの復興、福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想の推進などに寄与する人材を育てようと昨年四月に小高商高と小高工高が統合して開校した。昨年十二月に商業科の授業「広告と販売促進」の一環で、古里の復興を進めるため、帰還住民らの生活を支える東町エンガワ商店で、特別実習を始めた。

商品の特徴を考えながら、ポップ広告を作る生徒=11月2日、小高産業技術高

 生徒は約三カ月間、商業科の菅野光(かんの・ひかる)教諭(31)から商品の棚割や陳列などを教わった。昨年十二月には、一年生の授業で学んだマーケティングの知識を応用し、需要が見込まれる約十種類の菓子を仕入れた。商品が最も手に取りやすい高さ「ゴールデンライン」(床から八十五~百二十五センチ)を意識し、何の商品をどこに置けば売れるかを仲間と相談しながら陳列した。明るい色合いやメッセージ性などを考えてポップ広告を作り、商品棚を彩った。十月には、人気商品のポップ広告を制作して付け加えた。

 常世田マネジャー(59)は「高齢者志向だった商品棚が一気に若返り、利用者が増えた」と効果を話す。

 同校の特色ある教育方針が評価され、文部科学省の職業人を育成する「スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール(SPH)」に県内で初めて認定された。三年生の岩井里奈(いわい・りな)さん(18)は「地域密着型で実践的な授業はやりがいがあり、私たちのやる気を高めてくれる」と笑顔を見せる。

 二〇一五年に開設した東町エンガワ商店は、原発事故後の住民の利便性確保に一定の役割を果たしたとして、十二月に閉店する。新たに公設民営の商業施設「小高ストア」(岡田義則社長)が十二月六日にオープンし、生徒はこの「新しい教室」で実習を続ける。三年生の草野流華(くさの・るか)さん(18)は地元企業へ就職する。「消費者目線でものごとを考える力を応用し、多くの人を喜ばせたい」と目標を語る。

支える人たち

■企画や商品開発 指導 小高ワーカーズベース社長 和田 智行さん

和田 智行さん

 南相馬市小高区の複合サービス業「小高ワーカーズベース」は市の委託を受け、二〇一五(平成二十七)年九月から「東町エンガワ商店」を運営している。和田智行(わだ・ともゆき)社長(41)は「高校生が買いたい、食べたいと思う、お菓子を自ら並べてもらおう」と小高産業技術高の特別実習に乗り出した。

 昨年六月から同校の生徒に企画立案や商品開発などのマーケティングを教えている。今年二月には、地域活性化に向けた仮想サービスの発表会に参加した。生徒が地域住民約百人を対象に行った市場調査の結果から考えたサービスの提案に耳を傾けた。生徒の多彩なアイデアを評価した上で、「この店にどうしても行きたい、と思わせる施設を作らなければ、人は呼び込めない」と指摘した。

 「反応が良く、何事にも前向きな子が多い」と印象を語る。地域の将来を担う生徒に向け、「地元のために活躍する人材に育ってほしい」と期待を寄せている。

■実践的学びの場 提供 丸上青果社長 岡田 義則さん

岡田 義則さん

 南相馬市原町区の青果仲卸業「丸上青果」は十二月六日に開店する「小高ストア」の指定管理者を務める。岡田義則(おかだ・よしのり)社長(44)は「地元の高校生と共に小高を盛り上げたい」と意気込む。

 施設は食料品や日用品などを扱うスーパーで、同校から徒歩十分ほどの大通り沿いにある。菓子売り場約三分の一のスペースの運営を生徒に任せ、商品の仕入れ、ポップ広告制作などに取り組んでもらう。実際の売上や利益も開示し、もうけるための販売方法をともに考えていく。生徒が企画した弁当や総菜の販売、小中学生向けワークショップの開催も検討している。

 商品の品ぞろえは、地域住民や高校生らから寄せられた意見や要望を基に決めた。「文房具を買うためだけに約八キロ離れた店に行く」との声もあった。

 今後は「東町エンガワ商店」に代わる「第二の教室」として、生徒の実践的な学びを支える。「柔軟な対応を心掛け、多くの方に愛される店をつくり上げる」と開店を見据える。

気仙沼向洋高(宮城県・気仙沼市)11月18日付

少し緊張した表情で販売会開始前の打ち合わせをする生徒たち。新商品の「酒粕ミルクどら焼き」(1個140円)に加え、歴代スイーツと伝統のサンマ缶詰がきれいに並べられた=10月28日、気仙沼市階上公民館

 東北有数の港町、宮城県気仙沼市。漁業や水産加工業のイメージが強いこの町で、気仙沼向洋高(佐藤浩校長、生徒三百五十九人)は「酒粕(さけかす)ミルクスイーツ」作りに取り組む。地域の食文化の一つ、酒粕を使ったアイデアを考え、市内の菓子業者らの協力を受けて商品化。十月二十八日には、地元の階上公民館まつりで今年の新商品を含む七種類が販売された。

 スイーツ作りを進めるきっかけになったのは、東日本大震災後の二〇一三(平成二十五)年に一般社団法人「アイ・クラブ」(当時はNPO)が気仙沼で開いた講演会だ。クラブが提唱する「新しいアイデアを生み出し、未来を考え、学ぶ『イノベーション教育』」に、参加した教諭らが心を動かされた。「生徒の判断力や考える力、創造力が高められる。地元の復興にも役立てられる」

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 一緒に取り組む生徒を募り、新たな価値創造を進める中で着目したのが酒粕だった。気仙沼には老舗の酒造会社が複数あり、酒粕はなじみが深い。メヌケのあらと白菜の古漬けに酒粕を加え、とろ火で煮込む「あざら」は代表的な郷土料理だ。しかし、人口減や核家族化、食の多様化などで、酒粕が家庭で使われる頻度は減り、若い世代では知らない人もいるという。

アイデア発表会でそれぞれが考えたスイーツ案を説明する生徒=9月10日、気仙沼向洋高

 「地域の食文化を守り、受け継いでいこう」。生徒たちは酒粕をスイーツに取り入れることで、広い世代に伝えられると考えた。二〇一四年度には酒粕と市内の牧場で生産される牛乳を組み合わせた「酒粕ミルクジャム」が誕生。後続商品のベースにもなっている。

 二〇一五年度からは「商品開発」の授業に取り入れ、産業経済科の二年生が全員で取り組む。アイデアづくりから、販売、市場調査、広告などの知識、技術を学ぶ。市内の菓子店に協力してもらい、自分たちのアイデアが商品化できるものかどうかも検証する。

 今年のアイデア発表会では、四十人が八グループに分かれ、それぞれの案を発表した。共通項は「幅広い年齢層にアピールできて、土産品にもなる」という点。復興に向かう気仙沼の新しい魅力を発信したいという思いにあふれていた。

 今年の商品化アイデアに選ばれたのは「酒粕ミルクどら焼き」。あんこと酒粕ミルクが入ったどら焼きで、二つの味が楽しめる。考案した「7班AWARS」の馬上有世さん(16)は「王道のどら焼きにアクセントを加えることで安定的に売れると考えた」とマーケティング的な視点を強調。菊地さゆりさん(16)は「家族全員で食べてもらいたい」と声を弾ませた。

 津波で浸水した旧校舎から約八キロ離れた仮設校舎で学んでいた生徒たちは今年八月、地元に建てられた新校舎に戻った。階上公民館まつりでは、同校伝統のサンマ缶詰も酒粕スイーツと一緒に販売。帰ってきた生徒たちの「手土産」は一時間ほどで売り切れた。

 指導に当たる安倍優文教諭(36)は「多くの人と関わることで人間性の成長が図られ、地域貢献の一翼を担うことができる授業だと実感している」と話した。

支える人たち

■生徒の発想が刺激に 「菓心 富月」社長 畠山 賢一さん

畠山 賢一さん

 「生徒は私たちには考えつかないようなアイデアを出してくる。こちらも楽しく、刺激になります」と笑顔を見せるのは、気仙沼市本吉町で老舗菓子店「菓心 富月」を経営する畠山賢一さん(67)だ。授業としてスイーツ作りが取り入れられる前から協力する賛同企業の一つで、生徒のアイデアに熟練の技を加え、自社商品として販売している。

 アイデアが実際に商品化できるものかどうかを確かめるため、発表会の前に畠山さんを訪ね、アドバイスをもらうグループもある。畠山さんも自社の設備で試作できるものは実際に作ってみたりして、生徒たちの思いに応える。そうした経緯もあり、毎年、講師を務めるアイデア発表会では、一つ一つのアイデアに気持ちを込めた講評をする。

 「子どもたちが地域資源を掘り起こし、アイデアを膨らませる。地域の大人たちも刺激を受ける。地域への貢献度は高い」と畠山さん。「ものを創り出す喜びと期待で、取り組む子どもたちの表情は皆、生き生きとしている。この経験は今後、社会に出たときに必ず役に立つ」と確信している。

■「生み出す力」育てる 「アイ・クラブ」ディレクター 神田 大樹さん 

神田 大樹さん

 生徒たちが商品開発に取り組む道筋を付けた一般社団法人「アイ・クラブ」のディレクター、神田大樹さん(28)は「アイクラブのiは、イノベーションのi。技術革新というより『未来をつくる力』という意味。ビジョンとして、誰もが『生み出す力』を持てる世の中にしていきたい」と話す。

 年間スケジュールの進め方などを学校側と考え、授業の講師を務める際や節目の発表会で的確なアドバイスを与え、モチベーションを高める。「生徒にとってかなり過密な日程だと思うが、毎年、しっかりしたアイデアを出してくる。まだまだ伸びしろがある」と生徒たちの頑張りを評価し、将来に期待を寄せる。

 酒粕を気仙沼の地域資源として当初からスイーツの素材としてきた。来年は授業に取り入れて五年目。「今後は違う地域資源でのスイーツ作りも検討していきたい」と語った。

福島工高(福島市)11月11日付

これまでに製作した照射装置を前に、新しい装置のアイデアを話し合う福島工高の生徒=10月27日、福島市

 福島市の福島工高(松本明倫校長、生徒八百二十九人)は、発光ダイオード(LED)照明を使った野菜栽培の研究に取り組んでいる。研究は今年で二年目。「どんな光が成長にとって有効なのか」と、昨年よりも最適な成長につながるよう知恵を絞り、研究でタッグを組む同市の福島明成高へ引き渡す準備を進めている。

 福島工高の生徒が、LED製造工場の福島サンケン(二本松市)の協力受けてLED照射装置を製作、福島明成高に引き渡し、同校生徒が装置を使用して野菜を栽培する。それぞれの専門分野を生いかし、天候に左右されない野菜の安定栽培と販売を目指している。

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 一年目の研究では、レタスやミニトマトなどを栽培。観察して分かったのは、光の強さのほかにも光の色(波長)が植物の成長に影響を与えるということ。レタスの苗を赤と青の二種類の光源で照らし、その生育状況を調べると、赤い光を当てた方が葉の面積が大きくなり、青い光を当てると茎が伸びた。人の目で感じる光と植物の成長に必要な光は異なるため、光量計で測る必要があると学んだことも研究の成果だ。

基盤にLEDをはんだ付けする生徒。細かい作業の連続となる

 十月二十七日、福島工高の教室では本年度、研究課題を引き継いだ電気科三年生の高橋亮(たかはし・りょう)さん(18)、菅野雅稀(かんの・まさき)さん(18)、中村健太(なかむら・けんた)さん(17)、佐藤龍幸(さとう・たつゆき)さん(18)、佐藤成悟(さとう・せいご)さん(18)の五人が製作作業の真っ最中。前回足りなかった光源を強くしようと、基盤にLEDを一つ一つはんだ付けしている。ビーズのような小さなLEDをはんだ付けする作業は精密機械を仕上げるような繊細さが求められる。「全部で七百二十個を分担して付けます。作業しやすいピンセットも買いました」と十一月中に引き渡すことを目標に、作業が急ピッチで進む。プログラムを担当した菅野さんはLEDの波長をあらかじめ数パターン設定し、ボタンで切り替えられるようにした。「赤を強くする必要がある時に簡単に切り替えられるようになった」とアイデアを出し合い、使い手の操作性も考えた。

 LEDを使った野菜栽培や土を使わない水耕栽培は、新しい農業の形として注目される。半導体製造工場の一部で低カリウムレタスを栽培する企業、季節を問わず効率的なメロン栽培に取り組む企業など県内でも広がりを見せている。班長の高橋さんは「太陽光など再生可能エネルギーを使う方法も考えた」と研究のさらなる構想を披露。「菜種油などほかにも用途が広がる菜の花やジャガイモなども栽培できたら」との意見も出た。未来を設計する生徒たちの探求心は尽きない。

支える人たち

■熱中する生徒見守る 福島工高教諭 鈴木将仁さん

鈴木将仁さん

 福島工高電気科は発電・送電に関する高電圧の知識から、エレクトロニクス分野まで幅広く学んでいる。研究に取り組む生徒は、在学中に工場やビルなどの高圧電流が流れる建物の工事に必要な国家資格「第一種電気工事士」、「第三種電気主任技術者」、「工事担任者」など電気技術者として高い知識と技術が必要な資格を取得する生徒が多い。昨年の担当教諭から研究を引き継いだ福島工高の鈴木将仁(すずき・まさひと)教諭(26)は「自分たちが作りたいものをどうやったら作れるか考えながら学んでいってほしい」と研究に熱中する生徒たちを温かく見守る。

 担当教員として生徒たちの成長が見られたのは、使う人の立場に立って物づくりをしようという意識。コンセントを差すと勝手に電源が入る仕組みだったものをスイッチ式に変えたり、温度計や湿度計を付けるところなど「こうしたら方がいいじゃないかと意見を出して相手が使いやすいように考えている」とうなずく。

 LEDは今後も用途が広がっていく技術であり、生徒の更なる活躍の場を期待する。

■労災事故防止に重点 福島工高教諭 半沢幸祐さん

半沢幸祐さん

 また同高は「実社会で通用する人材の育成」を教育方針に掲げ、安全意識の高い技術者の育成にも力を入れる。担当する半沢幸祐(はんざわ・ゆきひろ)教諭(36)は「目に見えない電気の怖さをしっかり学び、対策を身に付けるのは企業が求める人材にもつながる」と話す。

 三年前から企業と連携し、労災事故防止に重点を置いた授業を取り入れている。

 授業では企業から外部講師を招き、実際に作業現場で行われている危険予知訓練(KYT)を行う。労働災害の現状を学びながら対策までを話し合うことで、技術者に求められる使命と責任を考えさせている。授業を受けた生徒たちは「少しの間違いが大きな事故につながることを学べた」と話しており、企業側も生徒の気付きが新たな未然防止策につながっているという。

金足農高(秋田市)11月4日付

商品を見ながら、今年の開発活動を振り返る生徒ら=10月15日、秋田市の金足農高

 秋田市の金足農高(渡辺勉校長、生徒五百十八人)は二〇一二(平成二十四)年から、大手コンビニエンスストア・ローソン(東京)と「金農パンケーキ」を毎年共同で開発し、秋田県内のローソンで期間限定で販売している。今年は同校野球部が第百回全国高校野球選手権記念大会で準優勝したことがきっかけで、販売終了後に“復活”を求める声が続出。再び発売され、一時品切れとなる人気ぶりだった。

 ローソンは二〇〇九年、秋田県と地産地消に関する包括連携協定を締結しており、商品開発はこの一環。同社が地元食材を使った商品を高校生に考案してもらおうと、金足農高に打診して実現した。生徒が毎年、パンの味や見た目、包装などについて提案し、同社が秋田市のたけや製パンに製造を依頼している。

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 毎年五月後半からの一カ月間、県内ローソンの全店舗で販売。今年五月末発売のパンケーキは、刻んで蜜漬けにした県産リンゴを、地元メーカーのしょうゆを隠し味にしたパン生地で挟んだ。姉妹品として販売した「金農デニッシュドーナツ」は、男鹿市産の塩を加えたキャラメルクリームをアクセントにした。

再発売に合わせ、金農パンケーキを買い求める親子連れ=8月23日、秋田市のローソン秋田八橋大畑店

 共同開発作業は一月にスタート。現在、食品流通科と生活科学科に在籍する二、三年生計十二人が携わった。生徒たちはターゲットを親世代に設定し、農作業の合間に食べられるおやつをイメージ。塩分を補給できる甘じょっぱい味を意識し、塩分濃度が異なるパンを複数試作してもらった。甘味と塩味のバランスにこだわって理想の味に近づけたという。包装はスクールカラーの紫を前面に押し出し、一目で金足農高の商品と分かるようにした。

 例年同様、販売は六月末で終了したが、野球部の甲子園での活躍を受け、SNS上で「またパンケーキが食べたい」などの投稿が相次いだ。このため、ローソンは急きょ再発売を決定。甲子園での決勝から二日後の八月二十三日には県内全店舗に商品が並んだ。九月二十五日からは東北各県の一部店舗でも販売している。

 食品流通科の佐々木小桃さん(18)は「自分たちで考えたことが商品に反映されるのが楽しかった。今年は野球部の活躍で例年以上に反響が大きく、やりがいも感じた」と話す。商品開発や店頭販売の経験を重ね、意見をまとめたり、人前でプレゼンテーションしたりする力も身に付き、就職活動に生かされたという。

 指導した川村桃子教諭(49)は「商品開発に携わるのは貴重なことであり、先輩たちが続けてきたことを長くつないでいこうという意識で取り組んでいる。金足農高生ならではのチームワークが、活動にも生きている」と話した。

支える人たち

■自由な発想が魅力的 ローソン東北商品部 石橋宜子さん

石橋宜子さん

 金農パンケーキは、県内で約二百店舗を展開するローソン(東京都)とたけや製パン(秋田市)が、金足農高の生徒のアイデアや意見を大胆に取り入れて生まれたヒット商品だ。

 今年の商品は、仙台市に事務所を置くローソン東北商品部でパンやデザートなどを企画する石橋宜子さん(35)が主に担当。仙台市から秋田市の金足農高に何度も通い、生徒たちと商品の味や包装の内容について話し合った。

 しょうゆや塩を使った甘じょっぱいパンというコンセプトは、同社でも珍しいという。石橋さんは開発の過程を振り返り、「市場のトレンドを探りながら、味や見た目にもこだわった。今どきの高校生らしい自由な発想が詰まった魅力的な商品になった」と話す。ローソンは、今後も同校と一緒にパンケーキの開発を続けていく方針。既に来年の商品の話し合いも始めている。

■新たな創作の刺激に たけや製パン営業課係長 工藤一さん

工藤一さん

 生徒たちが考えたパンケーキを実際に製造するのは、一九五一(昭和二十六)年創業で秋田市に本社を置くたけや製パン。同社営業課の工藤一(はじめ)係長(42)は、二〇一四(平成二十六)年から金農パンケーキを担当。「生徒は毎年、積極的に意見を出してくれる。可能な限りアイデアを形にしたいという思いで携わっている」と話す。

 生徒の意見が全て商品に反映されるわけではない。地元産食材の調達量や製造コスト、消費期限の兼ね合いなど、商品として売り出すために考慮すべき点が多くあるためだ。

 同社は通常、実現性を考慮して社員が新商品のアイデアを出し合う。一方、金農パンケーキは、まず高校生の自由な発想を引き出した上で、与えられた設備や食材の中でどう実現できるかを模索しているという。

 ナポリタン風に味付けした稲庭うどんを使ったパンや、みそ風味の菓子パンなど、過去には材料調達の都合などで商品化できなかったアイデアもあった。工藤係長は「私たちには思い付かない斬新なアイデアばかり。若者のニーズを知るとともに、新たなパン作りのための刺激にもなっている」と語る。

海洋高校(新潟県・糸魚川市)10月28日付

「香港フードエキスポ」で開発した商品をアピールする海洋高の生徒=8月(能水商店提供)

 新潟県糸魚川市の海洋高校(椎谷一幸校長、生徒二百三十人)は、サケの魚醤(ぎょしょう)「最後の一滴」に象徴される水産加工品の開発で近年、注目されている。今春、生徒と商品開発や製造販売実習に携わってきた教師が退職し、開発品販売やキャリア教育支援を担う会社「能水商店」を設立。学術的教育と職業教育を同時に進める「糸魚川版デュアルシステム」として、本格的なキャリア教育の確立を目指す。

 海洋高は県内唯一の海洋系高校。起源は明治時代までさかのぼり、能生水産高などを経て一九九三(平成五)年、現在の海洋高となった。生徒は以前から食品加工を学んできたが、現在のようなキャリア教育の体制が確立されたのは二〇一五(平成二十七)年、同窓会「能水会」や糸魚川市と連携して水産加工事業所「シーフードカンパニー能水商店」が設立されたことが大きい。

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 きっかけは、これに先立つ二〇一三年。地元の能生川で捕れたサケが、イクラを採った後に捨てられていることを知った海洋高食品研究部の前身のクラブの生徒が「有効利用はできないか」と考え、「最後の一滴」を開発したことだった。水産加工品を製造できる事業所の完成に伴い、商品販売を生徒が現場で実践する機会が多くなった。

 その後、商品のラインアップは増え、甘エビを使った魚醤や、ポン酢、マコンブを練り込んだ麺類など約二十種類を商品化した。県内の小売店や飲食店などで扱われるほか、県外からの引き合いも増えている。二〇一七年度の売上高は約三千四百万円だった。さらに海外との本格的な取引も目指す。

 海外各地の商談会や展示には、食品研究部員らが参加。商品知識や英会話のテストで選抜された生徒が派遣される。

海洋高の取り組み報告会で香港での活動について発表する生徒=9月25日、糸魚川市役所

 ことし八月には初めて香港で開かれた展示会「香港フードエキスポ」に参加。一、二年生の計四人が、プロのバイヤーや料理人らに商品の特徴や価格などを英語で説明した。

二年生の金山芽生さん(17)と田村渓さん(17)は「入学前は、まさか自分が海外で商品を紹介することになるとは思っていなかった」「海外で売ることができる商品作りや、しっかり説明できる英語力を身に付けられるよう頑張りたい」と話す。

 映画関連の学校への進学を希望している食品研究部長の三年、門脇巧弥さん(17)は「チームでモノを開発・製造し、マーケティングをしながら良さを伝えていくのは、どんな仕事でも同じはず」と経験を生かしたいと考えている。

 二〇一六年に発生した糸魚川大火からの復旧・復興が喫緊の課題となっている糸魚川市にとっても、地元ブランドをアピールする海洋高への期待は大きい。

市、海洋高、能水商店は、産学官連携による水産資源の活用を目指す協定を結んでおり、市としても販売の機会提供やPR支援で協力するほか、財政支援も検討している。

 九月に市役所で開かれた学校の取り組み報告会では、椎谷校長が「実践的で魅力的な取り組みを今後とも進めていきたい」と強調。これに対し米田徹市長は「糸魚川の特産をしっかりと位置づけしてくれた」と述べ、さらなる展開へ期待を込めた。

支える人たち

■産学官の連携を継承 能水商店社長 松本将史さん

松本将史さん

 海洋高校が開発した商品の取り扱いはことし四月から、同校を退職した松本将史さん(39)が設立した会社「能水商店」が担っている。

 社長を務める松本さんは起業した理由を「教員をしながらでは時間や立場などの面で制約があり、しっかりとした運営ができないから」と語る。販路の拡大を目指し、連日、全国を駆け回っている。

 海洋高の商品をこれまで扱っていた「シーフードカンパニー能水商店」は、高校と同窓会、糸魚川市の三機関が連携して設立された。現在の能水商店も三機関の連携を引き継いだ。

 松本さんは、こうした三機関連携の取り組みを「糸魚川ならでは」と感じている。海に面した糸魚川の水産資源、その水産資源と食品に関する研究を行っている海洋高があるからだ。さらに、この環境を生かしたキャリア教育の拠点となることで、県内外から糸魚川に人を呼ぶことができる可能性についても言及する。

 長期的には水産業の担い手育成も見据えている。例えば、サケの魚醤(ぎょしょう)の販売量が増えれば、漁業者の収入の安定になる。地元の漁協が取り組んでいるサケの稚魚の放流量も維持でき、資源の維持も期待できる。松本さんは「ビジネスとして回っていく態勢ができれば、将来の資源管理にもつながる」と強調する。

■キャリア教育に期待 同窓会「能水会」会長 岩崎昇さん

岩崎昇さん

 長年、学校を支援してきた同窓会「能水会」会長の岩崎昇さん(72)=東京在住=は「市や松本さんと卒業生が一丸となって築き上げてきた事業とキャリア教育のプラットホームを、うまく会社組織に引き継げた」と振り返る。「海洋高の取り組みが注目されることは、糸魚川出身者の喜びになっている」と声を弾ませる。

 前身の能生水産高時代も含め、全国のさまざまな業界にOB・OGがおり、これまでも学校の活動に協力してきた。今後も会社組織となった能水商店を中心に積極的に協力していく考えで、「産学官連携のキャリア教育で、一層の地域振興と事業規模の拡大に期待したい」と力を込めた。

置賜農高(山形県・川西町)10月21日付

紅大豆を使ったパンの開発に取り組む置賜農高の「豆ガールズ」=9月22日、川西町・置賜農高

 山形県川西町の置賜農高(柴崎浩校長、生徒二百八十八人)は、「地域になくてはならない学校」「地域を担う人材の育成」を教育目標に掲げ、生徒が実習で栽培した農産品の販売や地域行事への参画、課題解決型の学習などに取り組んでいる。特に注目されているのが、同町特産の紅大豆を使った加工食品開発などに取り組む「豆ガールズ」だ。生産者や消費者、地元の小学生など、町内外の「多世代」と交流、連携しながら、地域活性化への役割を果たしている。

 豆ガールズのメンバーは、食料環境科食品コースで課題研究テーマ「六次産業」を選択している二、三年生の女子生徒たち。現在は三年生十一人、二年生の七人が活動している。授業を担当する江本一男実習教諭(65)は、町内にあるJR羽前小松駅の管理運営などを担うNPO法人「えき・まちネットこまつ」の理事長でもある。

 紅大豆は町内の農家で昔から自家栽培されてきた品種で、在来種としての価値が見直され、十五年前から本格的に生産が始まった。だが、生産・販売は思うように伸びなかった。「紅大豆のまち」の伝統を受け継いでいこうと、二〇一四(平成二十六)年に高校生の活動が始まった。

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 活動は三つのステージで行われている。一つ目は「学ぶ」。地元の主婦や生産者などから、紅大豆の栄養や調理法、栽培などを学んだ。学びの中で、新しい商品開発も進めた。紅大豆のジャムや大福の開発から始まり、今春には紅大豆と米沢牛を使ったレトルトカレーを地元企業の協力で商品化した。県産米「つや姫」と紅大豆を使ったジェラート「百恋(ひゃっこい)」も発売し、好評を得ている。

 二つ目は「育む」。自分たちの学びを地元の子どもたちにも受け継いでもらおうと「豆育」に取り組んでいる。小学校などで出前教室を開くため、紙芝居やかるたを制作。子どもたちに教えることは、自分たちの学びにもつながっている。

 三つ目は「伝える」。県内外で、生徒が講師になって豆料理講習会を開いている。おそろいの法被を着て販売活動も行っており、東京・浅草の商業施設など多くの人が集まる場所でも大きな声を出して地元の魅力を発信している。

自分たちで開発した紅大豆入りジェラート「百恋」を販売する「豆ガールズ」のメンバー=7月5日、川西町・置農チャレンジショップ「ぼ~の」

 昨年度には総務省のふるさとづくり大賞総務大臣賞や、やまがた公益大賞グランプリも受賞した。現在は紅大豆を使ったパンの新商品を開発中だ。今年からは、豆ガールズが中心になり、農業に関わる女性の力を結集して産業振興を図る「ノケジョプロジェクト」も始まった。江本教諭のNPOによる高齢者の居場所づくりにも参画し、農業と福祉の連携「農福連携」についても学びを深めている。

 今年、豆ガールズのリーダーを務める三年新野咲さんは「活動が町や学校のPRにつながっているのはうれしい。いろんな人の話を聞いたり、人前で大きな声を出したり、普通はできない経験で成長できた」と話す。豆ガールズのOGの多くは、食に関係する職業や学校に進んでいる。ただ、地域外への進学を選んだ生徒の多くが地元に戻ってくる。高校生の時に地域と関わった体験が、そうした流れにつながっている。

支える人たち

■多世代での連携推進 置賜農高実習教諭 江本 一男さん

江本一男さん

 置賜農高の江本一男実習教諭が理事長を務めるNPO法人「えき・まちネットこまつ」は、駅の管理運営だけでなく、地域活性化活動を行政や他組織と連携しながら展開している。豆ガールズをはじめとした高校生は、連携の中でなくてはならない存在になっている。

 駅前には同校のアンテナショップがあり、実習で栽培した野菜などを販売している。県外から人が集まるイベントでは高校生が案内役を務めることもあり、交流人口の拡大にも一役買っている。

 地域活性化のキーワードとして「多世代連携」を掲げる江本教諭は「高校生が動くとトルネードの中心となり、周りも引っ張られる」と話す。さらに、高校生にとっても「最近の子は年長者との人間関係の構築が不得意な面もある。活動を通じてコミュニケーション能力を身に付けることもできれば」と願う。

■栽培の知識など伝授  川西町紅大豆生産研究会長 淀野 貞彦さん

淀野貞彦さん

 町内の紅大豆生産者十八人でつくる川西町紅大豆生産研究会で会長を務める淀野貞彦さん(63)は同校のOBだ。同会は二〇〇六年の発足以来、町内の学校給食に紅大豆を提供している。給食を食べた子どもたちが高校生になって豆ガールズとして活躍していることに、淀野さんも喜びと手応えを感じている。

 紅大豆の収量は一般のものと比べ二割ほど少ないが、「うまかったから畑の端で栽培が続けられてきた宝物」と愛着も強い。「よく残していただいた」という先人への感謝は、「残し続けないと」という思いにつながっている。

 豆ガールズには、栽培の知識のほか、豆の加工について得た新しい知見も伝えている。昔ながらの料理法を残すことも大事だが、時代に合った新しい料理法を「次から次へと展開してくれる」と、高校生への期待は大きい。「自分たちが育った場所の名産品、特産品を誇りに思い、卒業してからも地域の良さを実感してほしい」と後輩の奮闘を温かく見守る。

五所川原農林高(青森県・五所川原市)10月14日付

むつ市川内町のエムケイヴィンヤードのブドウ畑で同社の工藤さん(中央)から生産状況などを聞く「高校生コンサルタント」の生徒たち=8月2日(五所川原農林高校提供)

 青森県五所川原市の五所川原農林高(菊地建一校長、生徒四百四人)は今年度、これまで蓄積したノウハウを生かした新たな取り組みを始めた。農産物の安全性などに関する国際規格グローバルGAP(ギャップ)の認証取得を目指す農業者を、生徒が指導する「高校生コンサルタント」だ。同校は今夏、同県むつ市のブドウ生産法人と連携協定を締結、地域資源の豊かさを再発見しながら「下北ワインの全国ブランド化」を後押ししている。

 同校は八月二日、むつ市川内町の農業生産法人「エムケイヴィンヤード」(北村良久社長)と、ワイン用ブドウのGAP認証の取得を支援する連携協定を締結した。

 同法人は、下北ワインを製造・販売しているサンマモルワイナリーのグループ企業で、原料のブドウを生産している。

 締結式には、同校グローバルGAPチームのメンバーで、コンサルタントを務める三年の加藤雅也さん、小野綾香さん、工藤未来さん、二年の加藤雄己さんの四人が出席し、セレモニー終了後、同社圃(ほ)場管理部の工藤和幸さん(22)の案内でブドウ畑などを見て回った。

 GAP認証取得には、農薬の管理など二百項目以上の審査がある。同校は、ソフトウエア企業NECソリューションイノベータ(本社・東京)のGAP認証支援サービスを利用し、インターネットを通じ、法人の生産管理状況や現地の点検結果などをチェック。これまで農薬、資材の保管方法を改めるようアドバイスしている。

 コンサルタントを務める同校の工藤未来さんは「施設を改善するのにも、会社には予算があるので大変だった。でもやりがいがあった」と話す。

 一方、生徒たちからアドバイスを受けた同社の工藤和幸さんは「農機具と資材を一緒に保管していたが、別々にするように改善した。生徒の説明は専門用語を易しい言葉に言い換えて分かりやすい」と評価する。

 同校のグローバルGAP取得は、地域の農業を担う生徒たちに国際性を身に付けてもらおうと、二〇一五(平成二十七)年度から始まった。認証品目はリンゴ、コメ、メロンと増え、現在、ジャガイモでの取得を目指している。

グローバルGAP公開審査で審査員(左)に農器具の保管状況などを説明した「高校生コンサルタント」の生徒たち=9月21日、同校

 さらに、GAP取得のノウハウを地域に還元するとともに、生徒自らも学んだことを検証しレベルアップしようと、今年度から「高校生コンサルタント」をスタートさせた。

 コンサルタントは生徒たちにとって、実社会で働く人たちと接し、多くの刺激を受ける機会にもなっている。一年前までは人前で話すのが得意ではなかったという小野さんは「これほど人前で話せるようになるとは思っていなかった。GAPの取り組みで多くのことを経験して自分を変えることができた」と話し、加藤雅也さんは「改めて農業の魅力を感じた。将来は農業をしたい」と力強く語る。

 菊地校長(57)は「生徒たちと話していると、真摯(しんし)な姿勢と自分たちの取り組みに対する自信、プライドを感じる。GAP取得やコンサルタントを通して成長する様子が手に取るように分かる」と取り組みの成果に自信を深めていた。

支える人たち

■生産者と生徒つなぐ NECソリューションイノベータ 中橋賢一さん

中橋賢一さん

 青森県北部、下北半島の陸奥湾に面したむつ市川内町に本社を置く農業生産法人「エムケイヴィンヤード」と、津軽平野に位置する五所川原市の五所川原農林高は、高速道路を利用しても、車で片道三時間ほどかかる。

 高校生コンサルタントを実施するに当たり、この距離を埋めたのが、NECソリューションイノベータのGAP認証支援サービスだ。両者が同サービスを使うことで生産情報を共有し、点検・チェックと改善が効率的にできるようになった。

 担当の同社スマートアグリ事業推進本部の中橋賢一さん(48)は、個人的にも「食」やGAPに関心を持ち、同校が国内の高校で初めてグローバルGAP認証を取得した当時から注目してきたという。サービスの担当者として利用法を説明、提案するだけでなく、生徒たちのよき相談相手でもある。

 「自分や自分の家族、周りの人がおいしいものを食べ続けられる世界が続く。それが自分の願い。農業や食の未来を支える人材を育てる五所川原農林高校の取り組みに協力できることはなによりの喜び」と話す。

■酒用ブドウ栽培提案 エムケイヴィンヤード社長 北村良久さん

北村良久さん

 高校生コンサルタントの活用を決めた「エムケイヴィンヤード」の北村良久社長(53)は、GAP認証取得に取り組むことで農作業現場の安全面、衛生面を確立することが目的と説明。「外部の認証制度を活用し、従業員の健康管理と労働環境の安全性を高めたい。社員も高校生が指摘してくれたことに対して『できません』とは言いにくいのではないか」と期待する。

 また、コンサルタントに関する連携協定締結を機に、同校にワイン用ブドウの栽培も提案している。「ワイン用ブドウの栽培に関心を持つ生徒がいると聞いた。生産現場に足を運べば栽培技術を学ぶこともできる。将来、五所川原農林高校で栽培したブドウでワインを造ってみたい」と思いを語った。

宮古商高(岩手県・宮古市)10月7日付

さわや書店フェザン店で事前研修する宮古商高の生徒。販売会で生かすため、商品の配置やポップ作りの工夫を学んだ=9月19日、盛岡市盛岡駅前通

 宮古市磯鶏(そけい)の宮古商高(高橋正浩校長、生徒425人)は毎年、全校で模擬株式会社による物産販売会「宮商デパート」に取り組んでいる。生徒が企画や仕入れ、販売を行い、商売の流れを体験する。本年度は飲食店や物産店など25のテナントが並び、初の試みとして外国人への英語接客を実践する。10月27、28日に同校で行われる本番に向け、準備を加速させている。

 宮商デパートは二〇〇三(平成十五)年度に開始。生徒が一株(五百円)ずつ、教員は三株ずつ出資して模擬株式会社を設立し、五月に株主総会を開催。六月に入社試験を行い、ビジネスマナーや授業で学んだ知識が身に付いているかを確認した。

 試験を踏まえ、各テナントのメンバーを学年混成で決める。そのため、普段親しい人と一緒になるとは限らず、協力態勢の確立が大事だ。毎週水曜日の総合学習の時間にテナント集会を開き、どんな商品を取り扱うか、どの年代の客層を狙うかなど、店の目標を話し合い、具体化していく。

 利益を生むため、仕入れ交渉や価格設定をいかに進めるかがポイント。プライベートブランドも企画・販売し、今年度は同市磯鶏の●哩(かりー)亭(小幡勉店主)と、海の幸を使った「宮商カレー」を開発している。(※●は口ヘンに加)

 同校は、県が指定する県内八校の国際リニアコライダー(ILC)モデル校に選ばれている。ILC計画は岩手が国内候補地となっている、宇宙の成り立ちを解明する国際プロジェクト。誘致が実現すれば、英語を話す場面が増えると見込まれるため、生徒は事前に英語接客を学び、本番では県内の留学生らに商品を売る。熊谷咲希(さき)さん(三年)は「海外の人をスムーズに案内できるように頑張りたい」と意識を高める。

 テナント店長や実行委員二十八人は九月十八日、盛岡市盛岡駅前通の盛岡駅ビルフェザン(笹野盤=いわお=店長)で、初めての事前研修を行った。さわや書店フェザン店では、商品陳列の工夫や特徴的なポップを視察。西村龍哉さん(三年)は「商品を手に取ってもらう工夫が参考になった」と熱心にメモを取った。

販売会に向け、テナント運営について話し合う宮古商高の生徒=9月20日、宮古市磯鶏

 今年で十六回目の宮商デパートは、地域のイベントとして定着し、例年三千人前後が来場する。二〇一七年は過去最多の三千七百十八人が訪れ、売上金六百三十三万円、利益九十万円を達成。一人三百円の配当金を出した。

 同年は十二月の株主総会で利益処分を協議し、十万円を一昨年の台風被災地の岩泉町に寄付。過去には地震に見舞われた熊本県にも二十万円を送るなど、社会貢献を学ぶ機会にしている。

 今年のテーマは「集い」。昨年以上の集客を目指す模擬株式会社社長の黒田春成(しゅんせい)さん(三年)は「将来の仕事に生かせるスキルを学ぶことができる。大勢のお客さんが集まってくれる宮商デパートにしたい」と力を込める。

支える人たち

■生徒の頑張り見守る 宮古商高教諭 山崎明仁さん

山崎明仁さん

 宮古商高の山崎明仁教諭(39)は五年前から宮商デパートを担当し、「活動を通じて成長が見える」と頑張りを見守ってきた。

 仕入れから経理まで一貫して経験する宮商デパート。体験型の学習を通じて、授業での学びを深める。「コミュニケーション能力や企画、段取り力など、社会に出たとき必要な力が身に付けられる。商業の学びの集大成になる」と意義を強調する。

 販売会は、毎年十月に二日間の日程で開催。「初日はだいたい失敗するが、二日目は良くなる。悪い点を改善しようとする姿勢を大事にしたい」と語る。

 宮商デパートは、一年間を通した取り組み。最初は生徒間のコミュニケーション不足で課題に直面する場面もあるが、三年生が下級生を引っ張って壁を乗り越える姿は頼もしい。

 年末の株主総会では、その年の改善点について熱い議論が交わされ「お客さんに喜んでもらおうと熱心に取り組む生徒が増えた。他の人の喜びを通して成長できるというのが、子どもたちにとって大切なこと」とうなずく。

 担当教員として「変化」を目標に掲げ、「現状維持では駄目。常に新しいことを考えて、お客さんに喜んでもらわないといけない」と、生徒に柔軟な発想を促すつもりだ。

■「旨海丼」を共同開発 丸友しまか専務 島香友一さん

島香友一さん

 宮商デパートでは、プライベートブランドの商品も人気を集める。宮古市千徳の水産加工業丸友しまかの島香友一専務(39)は二〇一六年、地元の良さを伝えたいという生徒の熱意に触れ、同市の海の幸を使った「旨海丼(うまみどん)」を共同開発した。生徒には具材によく絡むたれの試作を担当してもらい、毎週のように打ち合わせを重ねた。途中、台風10号豪雨で会社が浸水被害に遭ったが「真面目に取り組む生徒の熱意もあり、何としてでも商品を完成させたかった」と、会社の復旧と並行して開発を進めた。

 「高校生は自分たちにはない感覚を持っているので、いい刺激になった。卒業後もいつかは宮古に戻ってきて、地元を盛り上げてほしい」とエールを送る。