高校生のシゴト力 ~地域を売り出せ~

 高校生の自立心やチャレンジ精神、創造力、コミュニケーション力などを育む手段として「起業教育」が見直されている。次世代を支える高校生が取り組む「ふるさと」を生かしたビジネスは地域が抱える問題の解決と振興に大きな力となっている。福島民報社は、東北と新潟県の有力紙八社共同で「高校生のシゴト力~地域を売り出せ~」をテーマに高校生ビジネスの取り組みと地域のつながりを八回にわたって紹介する。

五所川原農林高(青森県・五所川原市)10月14日付

むつ市川内町のエムケイヴィンヤードのブドウ畑で同社の工藤さん(中央)から生産状況などを聞く「高校生コンサルタント」の生徒たち=8月2日(五所川原農林高校提供)

 青森県五所川原市の五所川原農林高(菊地建一校長、生徒四百四人)は今年度、これまで蓄積したノウハウを生かした新たな取り組みを始めた。農産物の安全性などに関する国際規格グローバルGAP(ギャップ)の認証取得を目指す農業者を、生徒が指導する「高校生コンサルタント」だ。同校は今夏、同県むつ市のブドウ生産法人と連携協定を締結、地域資源の豊かさを再発見しながら「下北ワインの全国ブランド化」を後押ししている。

 同校は八月二日、むつ市川内町の農業生産法人「エムケイヴィンヤード」(北村良久社長)と、ワイン用ブドウのGAP認証の取得を支援する連携協定を締結した。

 同法人は、下北ワインを製造・販売しているサンマモルワイナリーのグループ企業で、原料のブドウを生産している。

 締結式には、同校グローバルGAPチームのメンバーで、コンサルタントを務める三年の加藤雅也さん、小野綾香さん、工藤未来さん、二年の加藤雄己さんの四人が出席し、セレモニー終了後、同社圃(ほ)場管理部の工藤和幸さん(22)の案内でブドウ畑などを見て回った。

 GAP認証取得には、農薬の管理など二百項目以上の審査がある。同校は、ソフトウエア企業NECソリューションイノベータ(本社・東京)のGAP認証支援サービスを利用し、インターネットを通じ、法人の生産管理状況や現地の点検結果などをチェック。これまで農薬、資材の保管方法を改めるようアドバイスしている。

 コンサルタントを務める同校の工藤未来さんは「施設を改善するのにも、会社には予算があるので大変だった。でもやりがいがあった」と話す。

 一方、生徒たちからアドバイスを受けた同社の工藤和幸さんは「農機具と資材を一緒に保管していたが、別々にするように改善した。生徒の説明は専門用語を易しい言葉に言い換えて分かりやすい」と評価する。

 同校のグローバルGAP取得は、地域の農業を担う生徒たちに国際性を身に付けてもらおうと、二〇一五(平成二十七)年度から始まった。認証品目はリンゴ、コメ、メロンと増え、現在、ジャガイモでの取得を目指している。

グローバルGAP公開審査で審査員(左)に農器具の保管状況などを説明した「高校生コンサルタント」の生徒たち=9月21日、同校

 さらに、GAP取得のノウハウを地域に還元するとともに、生徒自らも学んだことを検証しレベルアップしようと、今年度から「高校生コンサルタント」をスタートさせた。

 コンサルタントは生徒たちにとって、実社会で働く人たちと接し、多くの刺激を受ける機会にもなっている。一年前までは人前で話すのが得意ではなかったという小野さんは「これほど人前で話せるようになるとは思っていなかった。GAPの取り組みで多くのことを経験して自分を変えることができた」と話し、加藤雅也さんは「改めて農業の魅力を感じた。将来は農業をしたい」と力強く語る。

 菊地校長(57)は「生徒たちと話していると、真摯(しんし)な姿勢と自分たちの取り組みに対する自信、プライドを感じる。GAP取得やコンサルタントを通して成長する様子が手に取るように分かる」と取り組みの成果に自信を深めていた。

支える人たち

■生産者と生徒つなぐ NECソリューションイノベータ 中橋賢一さん

中橋賢一さん

 青森県北部、下北半島の陸奥湾に面したむつ市川内町に本社を置く農業生産法人「エムケイヴィンヤード」と、津軽平野に位置する五所川原市の五所川原農林高は、高速道路を利用しても、車で片道三時間ほどかかる。

 高校生コンサルタントを実施するに当たり、この距離を埋めたのが、NECソリューションイノベータのGAP認証支援サービスだ。両者が同サービスを使うことで生産情報を共有し、点検・チェックと改善が効率的にできるようになった。

 担当の同社スマートアグリ事業推進本部の中橋賢一さん(48)は、個人的にも「食」やGAPに関心を持ち、同校が国内の高校で初めてグローバルGAP認証を取得した当時から注目してきたという。サービスの担当者として利用法を説明、提案するだけでなく、生徒たちのよき相談相手でもある。

 「自分や自分の家族、周りの人がおいしいものを食べ続けられる世界が続く。それが自分の願い。農業や食の未来を支える人材を育てる五所川原農林高校の取り組みに協力できることはなによりの喜び」と話す。

■酒用ブドウ栽培提案 エムケイヴィンヤード社長 北村良久さん

北村良久さん

 高校生コンサルタントの活用を決めた「エムケイヴィンヤード」の北村良久社長(53)は、GAP認証取得に取り組むことで農作業現場の安全面、衛生面を確立することが目的と説明。「外部の認証制度を活用し、従業員の健康管理と労働環境の安全性を高めたい。社員も高校生が指摘してくれたことに対して『できません』とは言いにくいのではないか」と期待する。

 また、コンサルタントに関する連携協定締結を機に、同校にワイン用ブドウの栽培も提案している。「ワイン用ブドウの栽培に関心を持つ生徒がいると聞いた。生産現場に足を運べば栽培技術を学ぶこともできる。将来、五所川原農林高校で栽培したブドウでワインを造ってみたい」と思いを語った。

宮古商高(岩手県・宮古市)10月7日付

さわや書店フェザン店で事前研修する宮古商高の生徒。販売会で生かすため、商品の配置やポップ作りの工夫を学んだ=9月19日、盛岡市盛岡駅前通

 宮古市磯鶏(そけい)の宮古商高(高橋正浩校長、生徒425人)は毎年、全校で模擬株式会社による物産販売会「宮商デパート」に取り組んでいる。生徒が企画や仕入れ、販売を行い、商売の流れを体験する。本年度は飲食店や物産店など25のテナントが並び、初の試みとして外国人への英語接客を実践する。10月27、28日に同校で行われる本番に向け、準備を加速させている。

 宮商デパートは二〇〇三(平成十五)年度に開始。生徒が一株(五百円)ずつ、教員は三株ずつ出資して模擬株式会社を設立し、五月に株主総会を開催。六月に入社試験を行い、ビジネスマナーや授業で学んだ知識が身に付いているかを確認した。

 試験を踏まえ、各テナントのメンバーを学年混成で決める。そのため、普段親しい人と一緒になるとは限らず、協力態勢の確立が大事だ。毎週水曜日の総合学習の時間にテナント集会を開き、どんな商品を取り扱うか、どの年代の客層を狙うかなど、店の目標を話し合い、具体化していく。

 利益を生むため、仕入れ交渉や価格設定をいかに進めるかがポイント。プライベートブランドも企画・販売し、今年度は同市磯鶏の●哩(かりー)亭(小幡勉店主)と、海の幸を使った「宮商カレー」を開発している。(※●は口ヘンに加)

 同校は、県が指定する県内八校の国際リニアコライダー(ILC)モデル校に選ばれている。ILC計画は岩手が国内候補地となっている、宇宙の成り立ちを解明する国際プロジェクト。誘致が実現すれば、英語を話す場面が増えると見込まれるため、生徒は事前に英語接客を学び、本番では県内の留学生らに商品を売る。熊谷咲希(さき)さん(三年)は「海外の人をスムーズに案内できるように頑張りたい」と意識を高める。

 テナント店長や実行委員二十八人は九月十八日、盛岡市盛岡駅前通の盛岡駅ビルフェザン(笹野盤=いわお=店長)で、初めての事前研修を行った。さわや書店フェザン店では、商品陳列の工夫や特徴的なポップを視察。西村龍哉さん(三年)は「商品を手に取ってもらう工夫が参考になった」と熱心にメモを取った。

販売会に向け、テナント運営について話し合う宮古商高の生徒=9月20日、宮古市磯鶏

 今年で十六回目の宮商デパートは、地域のイベントとして定着し、例年三千人前後が来場する。二〇一七年は過去最多の三千七百十八人が訪れ、売上金六百三十三万円、利益九十万円を達成。一人三百円の配当金を出した。

 同年は十二月の株主総会で利益処分を協議し、十万円を一昨年の台風被災地の岩泉町に寄付。過去には地震に見舞われた熊本県にも二十万円を送るなど、社会貢献を学ぶ機会にしている。

 今年のテーマは「集い」。昨年以上の集客を目指す模擬株式会社社長の黒田春成(しゅんせい)さん(三年)は「将来の仕事に生かせるスキルを学ぶことができる。大勢のお客さんが集まってくれる宮商デパートにしたい」と力を込める。

支える人たち

■生徒の頑張り見守る 宮古商高教諭 山崎明仁さん

山崎明仁さん

 宮古商高の山崎明仁教諭(39)は五年前から宮商デパートを担当し、「活動を通じて成長が見える」と頑張りを見守ってきた。

 仕入れから経理まで一貫して経験する宮商デパート。体験型の学習を通じて、授業での学びを深める。「コミュニケーション能力や企画、段取り力など、社会に出たとき必要な力が身に付けられる。商業の学びの集大成になる」と意義を強調する。

 販売会は、毎年十月に二日間の日程で開催。「初日はだいたい失敗するが、二日目は良くなる。悪い点を改善しようとする姿勢を大事にしたい」と語る。

 宮商デパートは、一年間を通した取り組み。最初は生徒間のコミュニケーション不足で課題に直面する場面もあるが、三年生が下級生を引っ張って壁を乗り越える姿は頼もしい。

 年末の株主総会では、その年の改善点について熱い議論が交わされ「お客さんに喜んでもらおうと熱心に取り組む生徒が増えた。他の人の喜びを通して成長できるというのが、子どもたちにとって大切なこと」とうなずく。

 担当教員として「変化」を目標に掲げ、「現状維持では駄目。常に新しいことを考えて、お客さんに喜んでもらわないといけない」と、生徒に柔軟な発想を促すつもりだ。

■「旨海丼」を共同開発 丸友しまか専務 島香友一さん

島香友一さん

 宮商デパートでは、プライベートブランドの商品も人気を集める。宮古市千徳の水産加工業丸友しまかの島香友一専務(39)は二〇一六年、地元の良さを伝えたいという生徒の熱意に触れ、同市の海の幸を使った「旨海丼(うまみどん)」を共同開発した。生徒には具材によく絡むたれの試作を担当してもらい、毎週のように打ち合わせを重ねた。途中、台風10号豪雨で会社が浸水被害に遭ったが「真面目に取り組む生徒の熱意もあり、何としてでも商品を完成させたかった」と、会社の復旧と並行して開発を進めた。

 「高校生は自分たちにはない感覚を持っているので、いい刺激になった。卒業後もいつかは宮古に戻ってきて、地元を盛り上げてほしい」とエールを送る。