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【東電強制起訴】説明責任を果たせ(3月1日)

 東京電力福島第一原発事故をめぐり、勝俣恒久元会長ら旧東電経営陣3人が業務上過失致死傷罪で強制起訴され、事故の刑事責任が裁判で争われることになった。未曽有の被害は本当に防げなかったのか。5年に及ぶ避難を強いられ、風評にも苦しむ県民は今なお疑問を持ち続けている。法廷という公開の場でしっかりと審理が尽くされるよう望む。
 東電はこれまで賠償などの形で原発事故の責任を負ってはきた。ただ、原発に甚大な被害を与えた大津波については「想定外」を繰り返した。福島原発告訴団などの告訴・告発に対し、検察も東日本大震災の巨大津波による被害予測は困難で事故後の対応も過失に問えないなどとして二度不起訴とした。
 一方、東京第五検察審査会は「勝俣元会長らは遅くとも2009年6月までに津波の高さが約15・7メートルになるとの試算結果の報告を受けていた」として二度にわたって起訴相当と議決し、今回の強制起訴となった。
 原発事故をめぐる調査では、国際原子力機関(IAEA)が昨年8月に公表した最終報告書で東電や日本の規制当局に対し、巨大津波が原発を襲う危険を認識していたものの実効的な対策を怠ったと総括した。政府事故調も大津波の発生を「想定外という側面があった」としつつ、「まったく予測されていなかったわけではない」とした。
 検審は一般市民から選ばれた審査員で構成している。強制起訴に至った背景には、対策の不備が重大な結果を引き起こしたと指摘されながらも、責任が問われないことに疑念を抱く率直な市民感情がある。多くの県民が同じ思いだろう。
 ただ、今回の裁判は証拠や争点を整理するだけでも相当な時間を要する可能性がある。強制起訴した側にとっては、検察が不起訴とした事案で刑事責任を立証するという難しい対応を迫られる。とはいえ、勝俣元会長らが単に「想定外」の主張を重ねるようでは、真相究明のための裁判がいたずらに長期化しかねない。再発防止に向けた何の教訓も得られまい。
 折しも、東電の原発事故対応をめぐり、核燃料が溶け落ちる炉心溶融(メルトダウン)の定義を明記したマニュアルが事故当時、存在していたにもかかわらず、使用していなかった事実が明らかになった。東電の危機管理体制の不備があらためて問われている。信頼を回復するためにも法廷で説明責任を果たすよう求めたい。(五十嵐 稔)

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