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五十回忌(1月8日)

 昭和39年と平成32年の東京五輪をつなぐ物語だ。増山実著「空の走者たち」(ハルキ文庫)は、円谷幸吉選手の新たな一面と須賀川市の情景を浮かび上がらせる。きょう、円谷選手の五十回忌を迎えた。
 市川崑監督の記録映画「東京オリンピック」で、マラソンは25分ほどにまとめられている。レースの序盤、円谷選手が一瞬、空を見上げる映像がある。増山氏は小説で「微笑」と表現しているが、なぜ笑ったのか。答えは作品を読んでいただくしかない。虚実とり混ぜた物語に、福島県人ならば納得できる挿話が用意されている。
 円谷選手の墓は須賀川市の十念寺にある。ライバルだった君原健二さんは毎年秋、円谷幸吉メモリアルマラソン大会に出場し続けている。大会後、墓前で缶ビールを半分飲み、残った半分を供える。五輪前の記録会で共に好走し、ビールで乾杯した記憶が鮮やかだからだ。
 「空の走者たち」は時空を超えて円谷選手と出会った17歳の女性が長距離走に本気で挑み、代表にまで成長し、東京五輪の女子マラソンを走りだす場面で終わる。銅メダリストは27年の生涯を真っすぐに駆け抜けた。福島の空を見上げたくなる。

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