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【「原発事故」使わず】県民と向き合って(3月15日)

 安倍晋三首相が東日本大震災の追悼式の式辞で「原発事故」の文言を使わなかったことについて、内堀雅雄知事は13日の記者会見で「県民感覚として違和感を覚えた」と苦言を呈した。一県民として、ごく自然でまっとうな反応と感じる。一方、菅義偉官房長官は同日の会見で「福島の復興に触れていた」と反論した。東京電力福島第一原発事故から6年を経て、県民と官邸との間には温度差が生じているのだろうか。
 政府主催の追悼式は平成24年から毎年行われているが、昨年までの首相式辞では必ず原発事故に触れていた。今年は「福島で順次避難指示が解除され、復興は新たな段階に入りつつあると感じた」と述べているが、原発事故の言葉は消えている。原発事故は、県民にとって現在も日常生活で向き合わざるを得ない重要なキーワードだ。
 参列した秋篠宮さまは「原子力発電所の事故」との表現で触れられ、「放射線量が高いことでいまだ帰還の見通しが立っていない地域の人々の気持ちを思うと、深く心が痛みます」と温かい言葉を述べている。
 世界でも例がない過酷事故だった。福島第一原発2号機では溶融燃料がどこにあるのかを昨年12月から調べている。しかし高線量に阻まれてカメラやロボットの不具合が続き、所在を特定できていない。東電は「世界初の調査で、十分なデータが入手できた」と成果を強調するが、廃炉は難航が予想される。
 政府と東電は今夏に溶融燃料の取り出し方法を検討し、33年の取り出し開始を目指すが、内部調査の「想定外」続きに廃炉工程全体への影響を懸念する声が出ている。いまだに県内外で約8万人が避難生活を強いられ、原発事故関連死が続く。内堀知事が言うように原発事故は過去形ではなく、まだまだ現在進行形だ。首相の現状認識は県民とどこか距離があるのではないか。
 国の復興施策に関して内堀知事は「県や自治体の要請を真摯[しんし]に受け止めてもらっている」と評価している。帰還困難区域の復興拠点についてはインフラ整備と除染を国費で行う福島復興再生特措法改正案が国会に提出された。課題は山積しているとはいえ、福島が前へ進むための法的な枠組みは整いつつある。
 安倍首相に原発事故から目を離すような意図はないと思う。しかし誤ったメッセージとして県民に伝わったのなら、今後の行動と政策で向き合ってほしい。県民は注視している。(浦山文夫)

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