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締めの名物(3月20日)

 ある夜の繁華街。大きな花束を腕に抱えたサラリーマン風の若い男性が目に付いた。同僚たちの見送りを受け、顔を上気させて立ち去る姿は少し照れくさそうだ。ちまたは歓送迎会シーズン真っ盛り。
 「福島市には飲んだ後に食べる締めの名物がない」。居酒屋で中年男がぼやいた。転勤族だという。「全国には深夜でも名物を食べられるところが多いが…」。盛岡ならじゃじゃ麺、広島はお好み焼き、沖縄はステーキといろいろあるのに残念、とのたまう。「うまいラーメン店は多いけど、そればかりじゃね。勤務地の魅力が色あせる」。評価は辛口だ。
 深夜営業をしない店にとっては法律の壁や人件費の問題もあるだろう。人気の店では食材がすぐなくなってしまうという理由だって考えられる。それでも彼は説く。「締めの名物があれば左党の楽しみは倍増する」。
 歓送迎の席にもよるが、地酒や郷土料理が出たとしても少しずつの場合が多い。だが、着任したてほど名物には目がないものだ。地元の味で満腹になれば心も満たされ、最高の酔い心地で家路に就ける。「食べ物との出会いも大切」。そう言って彼は締めではないらしいギョーザを平らげた。

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