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【浪江山林火災風評】正確な情報で払拭を(5月13日)

 浪江町井手の十万山の山林火災は本県に対する風評の厳しさを改めて突き付ける結果となった。インターネット上に広がる「フェイクニュース」(真実ではない情報・虚報)を払拭[ふっしょく]するには、分かりやすく正確な情報を発信し続けるしかない。関係機関には正しい情報発信へ一層の努力を望みたい。
 浪江町の山林火災はゴールデンウイーク(GW)初日の4月29日に発生した。浜通りの天候は不安定で、雨も降らないのに閃光[せんこう]と雷鳴がとどろいた日だ。発生場所は東京電力福島第一原発事故による帰還困難区域だった。自衛隊の大型ヘリや県近隣の消防防災ヘリが投入され、空から消火が続いた。しかし、地上の人海戦術が難しく、夜間の消火活動が困難な場所の完全消火は容易ではなかった。
 ネット上に信ぴょう性に欠けるうわさや事実と異なる火災の現場写真が出回るのは早かった。発生場所が比較的放射線量が高いとされる区域だけに、放射性物質が火事で舞い上がり拡散しているという論調が目立った。県は、火災発生前と発生後の空間放射線量に大きな違いのないことをデータに基づいて連日、発表したが、拡散するネット上の「うわさ」は広がり続けた。ネット上で次々転載されると、否定しても言葉は残る。
 県は放射線量の観測装置を火災前の5カ所から8カ所に増やした。ただ、数字の発表だけでは単位も含めて分からないことが多い。その結果、火災発生から10日目に、大気浮遊じん(ダスト)のセシウム137の測定値が上昇したことを巡り、再び臆測が広がった。観測されたのは、食品の放射性物質検査で用いる単位に合わせると一立方メートル当たり最大で前日の0・00085ベクレルから0・00763ベクレルへの上昇だった。県放射線監視室によると平時でも天候によっては同程度の変化が見られるという。検出下限値に近い数字だが、この数字が「前日の3~9倍に急上昇」とニュースで流れると「数倍」という観念が一人歩きする。「安全」だけでなく「安心」を示す情報発信の難しさが思い知らされる。
 浪江町の避難指示が3月31日に一部解除され、復興への取り組みが本格的に始まる矢先に火災は発生した。建物や人的な被害はなかったのに「風評」という本県にとって最も頭の痛い「被害」に見舞われている。帰還する住民のためにも国や県、関係機関はいかに正しく「安全」で「安心」できる情報を発信できるか、さらに知恵を絞ってほしい。(関根英樹)

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