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妊娠中はマグロにご用心(6月4日)

 昨年11月28日に毎日新聞が報じた「マグロ過食に注意、妊婦から胎児へ影響」の記事は衝撃的だった。福島県内の医療機関でも、妊婦にマグロを食べないよう指導しているところもあるが、驚いた読者もいたことだろう。
 食物連鎖の頂点に立つマグロなど一部の大型魚類は他の魚と比べて水銀濃度(メチル水銀)が高くなりがちだ。日本人が摂取する水銀の8割は魚介類由来といわれる。メチル水銀は妊婦の胎盤を通して胎児の発達に影響を与える可能性が近年指摘されることから、厚生労働省は平成17年に妊婦を対象に「水銀を含む魚介類の摂食に関する注意事項」を公表して注意を促していた。
 記事によると、三陸沿岸に住む妊婦の2割は基準(目安)を超えてマグロを食べていたという。注意事項は法的強制力がなく、妊婦の判断に委ねられているためだろうか。関係機関の指導の在り方を改めて検証する必要がある。
 注意すべき主な魚介類と、食べる量の目安としてメカジキ、キンメダイ、クロマグロ、メバチなどは週に約80グラム(刺し身一人前、切り身なら一切れ)まで。週に2種類を食べる場合はそれぞれ2分の1にするよう工夫が必要となる。キダイ、マカジキ、ミナミマグロ、クロムツなどは週160グラムまでとしている。すし一貫、刺し身一切れを約15グラムと計算すればよい。マグロの中でもキハダ、ビンナガ、メジマグロ(クロマグロの幼魚)、ツナ缶は水銀量が少なく、通常の摂食で問題はない。
 魚介類は妊婦にとって健康維持に必要で栄養豊富な食材だ。妊娠中は注意事項対象の魚を偏って多量に食べないようバランスの取れた食事をするのが大切だ。
 東京都の豊洲市場移転で問題とされた水銀は水俣病の原因物質としても知られる。61年前に熊本県水俣湾付近の住民で多発した中毒性の神経系疾患は、工場から排出された高濃度のメチル水銀を含む魚介類を食べたことが原因だった。
 国は昭和48年、消費者向けに魚介類の水銀暫定規制値を定め、今日まで行政指導で運用してきた。ただ、注意事項と同様に法的強制力はないうえマグロ類(マグロ、カジキおよびカツオ)、メヌケ、キンメダイなどは適用除外としている。見直しが必要だろう。
 国連環境計画によると、平成22年は約2000トンの水銀が大気に排出され、環境汚染が深刻となっている。小規模の金採掘や発電などの石炭燃焼が主な発生源だ。アジア、アフリカ、中南米が排出の大半だが、マグロは回遊するため水銀汚染から逃れられない。
 わが国は水銀の人為的な排出から人の健康や環境を守るために、国際的な水銀に関する「水俣条約」を昨年受諾した。マグロ好きの日本人として、水銀による海洋汚染は気にかかる。世界各国が協調して水銀対策に取り組んでほしい。(阿部正 福島学院大名誉教授)

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