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人工知能と将棋の世界(6月18日)

 最近、将棋界が盛り上がっている。マスコミの注目度も高い。中学生のプロ棋士が誕生し、しかも並はずれた強さを発揮して、連勝街道を驀進[ばくしん]しているからだ。
 彗星[すいせい]のごとく現れた藤井聡太四段の活躍には驚きを禁じ得ない。昨年10月のプロデビュー以来17日の対戦まで、公式戦で1回も負けることなく連勝記録を27に伸ばした。過去の最多連勝記録は神谷広志五段(当時)の28連勝であり、それに次ぐ第2位の記録だ。
 中学生でプロ入りした棋士には加藤一二三、谷川浩司、羽生善治の各元名人、渡辺明竜王がいるが、この先人たちをもしのぐ記録であり、期待が膨らむ。
 ところで、私自身、子供の頃、父に教わった将棋の魅力にとりつかれ、今日まで将棋をもっとも愛着のある趣味の一つとして楽しんでいる。将棋は相手方と同じ陣容の駒を持ち、知能の限りを尽くして相手と戦い相手の王将を詰ませるゲームであるが、縦、横9つ、合計81の升目の中にいわば無限の宇宙が広がっているという感慨を覚える。将棋は単なるゲームではなく、いにしえの時代から受け継がれてきた日本の伝統文化の一つでもあるのだ。私は、検察官時代も、同好の士を集め、20人前後の検事らが中心になって運営する「法務検察将棋クラブ」を結成し、多忙な特捜事件捜査の合間を惜しんで、この深遠な魅力のある趣味に没頭した。
 さて、私は、10年ほど前から日本将棋連盟の顧問弁護士を務めている。将棋界はこの一年いろんな意味で世間の注目を集めている。その一つが昨年発生した、スマホ不正疑惑事件である。あるA級棋士が、公式戦の対局中にしばしば席を立ち、その後妙手を連発し勝ち続けたことから、棋士の間で、離席中に人工知能(AI)すなわち、将棋ソフトの助けを借りているのではないかとの疑惑がもちだされ、将棋連盟がこの棋士を出場停止処分にしたことから、騒ぎが大きくなった。外部有識者による調査が行われた結果、「不正をはたらいた証拠はない」という結論が出て、この棋士の疑惑は晴れた。考えてみると、このような問題が起きるのも、人間であるプロ棋士の知能よりもAIの方が勝ってきたのではないかということなのだ。果たして、つい最近も佐藤天彦名人が、「ポナンザ」というソフトと二番勝負を行い連敗した。どうやらAIは、人間に追いつき、追い越し始めたようだ。しかし、考えてみれば、AIを作り出しているのも人間なのだ。だから、詰まるところは、人間同士の戦いに帰着すると考えても良いのではないか。藤井プロとAIが戦った場合はどのような結果が出るだろうか。
 ちなみに私は毎晩パソコンでAIと将棋の真剣勝負を繰り返しているが、日に日に実力の差が広がり、劣勢を実感している。(宗像紀夫 内閣官房参与・弁護士、三春町出身)

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