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英知を結集する仕組み5(6月25日)

 事故から30年たったチェルノブイリ原発の立ち入り禁止区域の環境を見るため先月中旬、現地を訪問した。区域を管理しているエコセンターから詳しい状況説明と現地視察を受けた。
 廃棄物処分場は医療や一般用の低レベル処分場、低・中レベルのブリャコフカ処分場、高レベルのピドゥリスニー処分場があった。印象に残ったのは高レベル処分場だ。発電所から1・5キロしか離れていない場所で、事故の爆発で飛散した高レベルの固形物をコンクリートの溝に埋設している。底には多数のひび割れがある。担当者は半減期2万4千年、350年待って1%減衰というプルトニウムの特性を考えると、すぐにでも再埋設を行いたいとのことだった。予定を聞くと空を見て答えはなかった。今のウクライナには資金がないのだ。
 事故を起こした4号機には、思ったよりも容易に車で近づけた。欧州などからの援助によって、昨年11月から飛行機の格納庫のような鋼製の巨大なシェルターで覆われた。外見だけ見ると、この状態で長期的に管理できると思える光景だった。しかし立派に見えるシェルターも、通常の安全余裕がとられた設計ではなく、100年という寿命も確定的な数字ではない。2032年までには風化して不安定な石棺を中から取り出す計画だ。シェルターも石棺も、日本のような地震国では課題がある。
 昨年、福島第一原発について原子力規制委員会委員から「取れるだけ取って、後は石棺とは異なる方法で固めて」長期に保管するという考えが出された。経済協力開発機構が示す長期処分の要件には「人の継続的な関与なしでの長期的安全性。科学的に予測ができる。現有の技術。必要なら回収が不可能ではない」とある。この原則で見ればチェルノブイリのシェルターや高レベル処分場の現状も該当しない。日本の規制委員会委員の意見も現有技術の裏付けがないので該当しないことになる。
 チェルノブイリ事故による河川や湖沼への影響を調べている研究者には地域の汚染対策の実情を案内してもらった。首都キエフでは研究室を見せてもらった。数人の年配の研究者とともに、「最近やっと来てくれた」と院生の女性研究者を大変うれしそうに紹介してくれた。
 米国スリーマイル島原発の廃炉工事の時は国家プロジェクトであり、「子供たちの世代の環境を良くする仕事」として電力、規制側が一体になって優秀な技術者を募った。一方、わが国ではいまだに規制委員会から「凍土遮水壁は投資に見合う効果があるのか」との発言があり、国のレベルでの一体感がない。人材集めも大変だ。
 スリーマイル島の時の規制側の責任者に日本の現状を説明したところ、彼は大きく笑ってコメントのしようもない、という表情だった。第一原発の廃炉はこれから高度な技術が要求される段階に入る。チェルノブイリで30年培った英知、また次世代の英知を結集することが大切だと思う。(角山茂章 会津大前学長)

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