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【トリチウム発言】地元で説明すべきだ(7月15日)

 東京電力福島第一原発で高濃度汚染水を浄化した後に残る放射性物質トリチウムを含んだ処理水について、川村隆東電会長は共同通信社などのインタビューで海に放出する方針を明言した。影響を最も危惧する地元漁協関係者への説明が全くない中での発言だ。先の原子力規制委員会の聞き取りに対して示した原発再稼働を巡る見解もそうだったが、地元の思いを理解していない姿勢に言葉を失う。
 汚染水に関しては3年前、原子炉建屋に入る前の地下水をくみ上げ、海に流す「地下水バイパス計画」を地元漁協が受け入れた。翌年には建屋周辺の井戸「サブドレン」の地下水を浄化後に放出する計画も容認した。たまり続ける地下水や汚染水が廃炉作業の支障になるとの現状を踏まえた苦渋の決断だった。
 当時の東電関係者は漁協への説明会を何度も開いた。国の担当者も同席した。漁協側は協議を重ね、海洋汚染の防止、風評対策の強化などの条件を付した上で組合員の総意を得た経緯がある。
 川村会長は、地元の理解があって初めて事が進むというこれまでの蓄積を知っているのだろうか。トリチウムを含む処理水に関し、「(原子力規制委員会の)委員長が、科学的には海水放水(海洋放出)できると公的な場面ではっきり言い、大変助かっている」と述べたが、科学的な側面だけで割り切れるほど問題は単純ではない。
 たとえ、法令基準以下に薄めた処理水の海洋放出が認められているとしても、県内漁業は原発事故に伴う風評をどう払拭[ふっしょく]するかという大きな問題に直面している。海洋放出に当たっての安全対策や風評問題への対応策をしっかりと説明する手順を踏まないまま、「(海洋放出の)判断はもうしている」などと発言するようでは、地元無視のそしりを免れない。
 東電は事あるごとに「地元の理解を得ながら」と言ってきたが、経営陣の刷新で姿勢は変わったのか。刷新を機に汚染水や原発再稼働など積み残しの問題に一気にけりをつけようとしているのか。
 県内漁業は試験操業から本格操業再開への大事な時期に差し掛かっている。一方で、廃炉を進める上で汚染水処理が重要なのは多くの関係者が認識しているだろう。真摯[しんし]な議論が必要なのに、川村会長はその前段で自社の都合だけを口にしている。現場感覚への配慮が欠落してはいないか。自ら地元に足を運び、説明責任を尽くさなければ、汚染水問題はこの先、前に進まない。(五十嵐稔)

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