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社会合意(8月27日)

 昨年4月の本欄で「社会合意」と言う題で、トリチウムを含む汚染水の問題は社会合意の問題であると述べた。先月、同じ問題で議論が巻き起こったので、もう一度社会合意について考えてみよう。
 原子力規制委員会は、国の安全基準濃度以下ならば処理済みの汚染水は海洋放出をすべきと主張している。一方、先月末に開かれた廃炉・汚染水対策福島評議会で、私は「トリチウム水の問題の本質は首都圏に代表される消費地の人の理解を得ること。すなわち社会合意を得ることだ」と述べた。
 同様のことがスリーマイル事故処理の時もあった。事故炉の格納容器内にはクリプトンのガスが満ちていた。米国人には、その存在自体が恐怖心の原因であり科学的な問題ではなかった。なぜなら米国人が愛するスーパーマンにとっては故郷クリプトン星が爆発してできた鉱物「クリプトナイト」が唯一の弱点だからだ。そのことを多くの米国人は知っているからクリプトンの取り扱いで科学的な議論はなかなか通用しなかった。
 2010(平成22)年4月、経済産業省のある委員会で「地方から見た原子力」というテーマで話をした。原発の立ち会い検査に市民を代表して参加している地元市町村の方から「このようなことを電力会社に質問してよいだろうか」と何度か聞かれた。
 当時の電力会社の回答は地元に十分配慮したものではなかった。国は稼働率向上のため長期サイクル運転を目指し、運転しながらの定期検査を議論していた。一方、県内には「不安や国への不信」があった。稼働率向上で首都圏には電気代値下げのメリットがあるが、地元はリスクが上がる可能性があるだけでメリットはない。そこで委員会では「現状の仕組みでは国と地方が乖離[かいり]する関係になっている」と述べた。
 それを解決するために、デンマークで育ったコンセンサス会議の例を挙げ、国と市町村との間に取り入れるべきではないかと主張した。コンセンサス会議は市民からなる市民パネル、市民パネルに専門的知識を提供する専門家パネルで構成される。市民パネルは専門家から必要と思われる知識や助言を受けるが、最終的には市民だけのグループで合意を作り上げる。市民が主役の会議だ。
 昨年4月の本欄では、フランスのトリチウム白書のことを紹介した。大統領直属の原子力安全局(ASN)がフランスを代表する研究機関、産業界、地方を代表する地域情報委員会(CLI)など多数の機関の意見をまとめて作成した。その中でもCLIは特徴ある組織だ。県議会議長が委員長で、半数は議員だ。環境保護団体、労働組合など幅広い立場の人が参加し、ASNとの意見交換は法律で保証されている。
 このように社会合意の仕組みはそれぞれの国で工夫されている。風評被害対策のみでなく、地球環境問題でも多くの人が多様な意見を持っている時代、日本でも日本人の考え方になじむ社会合意の仕組みを考える必要があるのではないだろうか。(会津大前学長・角山茂章)

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