あぶくま抄・論説

あぶくま抄

  • Check

夢追い人(9月9日)

 大レースに勝つばかりが名馬ではない。記録より記憶に残る個性的なサラブレッドがいる。そうした存在が競馬人気の一端を支えている。
 震災の年にデビューした中央競馬のシルクドリーマーは8歳馬だ。人間なら中高年に当たる年代か。同期生が引退する中、大きなけがもなく走り続けてきた。短距離を使われ、鋭い末脚を武器に4勝を挙げた。しかし、年齢による衰えか勝ち星から遠ざかる。馬主は預ける厩舎[きゅうしゃ]を代え、新味に期待した。
 新たに管理する調教師は長めの距離を使い出した。晩年の100メートルランナーが突然、400メートルや800メートルに挑むようなものだが、新たな可能性に懸けた。誰が想像しただろう。終わりかけていた馬がよみがえる。徐々に先頭との差を詰めるいぶし銀のレースぶりで昨年、久々の勝利を挙げた。実力馬がそろう今年の目黒記念では、6着に食い込んだ。もう52戦をこなした。骨折で休養中だが、まだ走る。
 あれもだめ、これも無理-。老いるとは、自分の手で身の回りに壁を築き、身動きが取れなくなってしまうことか。動かす気になれば、壁は意外と容易に倒れるのかもしれない。いくつになっても「夢追い人」は美しい。

カテゴリー:あぶくま抄

あぶくま抄

>>一覧