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異国の恩師(9月17日)

 先日、米国の恩師からメールが届いた。元気でやっているのか。10年以上会ってないように思うが、全てのことがうまく運んでいることを願う。現在、来年の国際会議の原稿を書いている。日本の現状が知りたい。そして、米国に来るときは、必ず会いにくるように-とあった。
 35年前の大学院生時代、1年間過ごしたテキサス大学オースティン校での恩師。今は退職しているが、いくつかのプロジェクトを展開しているとも記されている。キャンパスは広大で、当時は石油採掘可能な所有地を企業に貸し出していた。学生とお金の両方を生んでいることがテキサス大学のキャッチフレーズだった。
 メールにあった日本の現状とは、私たちの専門分野の研究・開発を意味している。何か新しいものが生まれていないかという質問だ。その回答は結構難しい。ある専門誌からは「新時代の○○○に求められるもの」という原稿依頼があった。ここでも「何か新しいもの」が求められている。
 工学は科学と技術を結ぶ学問とされ、技術は「科学を実地に応用して自然の事象を改変・加工し、人間生活に役立てるわざ」(広辞苑)だ。この文脈からすれば、科学を実地に応用する手法を見つけ出すのが工学ということになる。
 好きな言葉に「無から有生む創造性」というのがある。ここに記された「無」の意味を考えなければならない。先日、ある議論の場で自動車の発明者に話が及び、開発時にはエンジンも車輪も存在していて、それらを組み合わせて「自動車」という新しいものができたという話になった。このように考えると、「無」から自動車ができたわけではなく、自動車という概念が無い場合には、そのことが「無」に相当すると気付く。
 研究・開発では「何か新しいもの」が求められる。しかし、今有るものをうまく組み合わせて有を生むという見方も重要である。むしろ、そのようなことの方が多い。もちろん、組み合わせの過程では、もともと有るものにさまざまな改良が加えられ、必要なものが生み出される。何も無いところから新しいものを生むのではなく、今有るものから新しいものを創造する力が求められる。
 そこで、異国の恩師は私たちの専門分野の現状を探り、どんなものが、どのように、どんなところに使用されているかを知る手掛かりになるリポートを書いている。
 国際会議の略称はICPIC。国際コンクリート・ポリマー複合体会議という。ポリマーは重合体、一般にプラスチックを意味し、コンクリートを作るときに混ぜたり、プラスチックだけで石を固めたり、固まったコンクリートに浸み込ませたりして作る材料をコンクリート・ポリマー複合体という。
 同じ材料でも国によって使い方が違うことがある。使い方が異なれば、それぞれの国にとっては新しいものとなる。メールの返信には、恩師の気遣いに感謝すること、専門分野の日本の現状、そしてこの材料の第二世代を創造したいと書いた。(日大工学部長・出村 克宣)

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