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津波防災の日(11月5日)

 今日は何の日? 「世界津波の日」だ。2011(平成23)年3月11日の東日本大震災で甚大な津波被害が発生したことから日本では「津波対策の推進に関する法律」が制定され、11月5日を津波防災の日と決めた。加えて、第70回国連総会本会議で「世界津波の日」とされた。
 なぜ11月5日が「津波の日」になったのだろう。今から160年以上も前の1854(安政元)年の同日、安政南海地震による大津波が紀伊国広村(現在の和歌山県広川町)を襲った。村人の浜口梧陵は収穫したばかりの稲わらに火をつけて、暗闇の中で逃げ遅れていた人々を高台に導いた。多くの命を救った「稲むらの火」の逸話は世界的にも知られるようになり、この日が選ばれた。
 「稲むらの火」の物語は1937(昭和12)年から10年間、教科書に採用されたので、年配の方々には記憶の片隅にあったろうが、時の流れとともに忘れられていた。国語の教材としては1960年代には全く姿を消しているようだ。もし、「稲むらの火」が今でも教科書に取り上げられていたならば、東日本大震災の犠牲者数は多少減らせたのでは、と思うと誠に残念だ。
 東京電力福島第一原発事故はスリーマイル島やチェルノブイリの原発事故と違い、地震と津波という自然災害が背景にある。いまだ燃料デブリも取り出せず、汚染水対策も完全ではなく、新たな問題も生じている。いかに原発事故が悲惨であるかを全世界に伝えるため11月5日が津波の日ならば、3月11日は「津波・原発事故」の日とすることを提案したい。
 津波は英語でも「tsunami」と表記され、世界的にも認識されている。震災から6年7カ月過ぎた現在、いわき市の沿岸には防潮堤が出来上がったが、その高さに地元の人々からは不満の声が上がっている。一律海抜7・2メートルという巨大な壁の向こうには、かつて心を癒やしてくれたあの美しい白砂青松の砂浜があるのだが、それを常時眺めることはできなくなった。津波は地震の後、必ずしもすぐに来るわけではない。この高さのために海が見えなくなり、地震後に防潮堤に上がって様子を見ようとして、災難に遭うこともあるだろう。
 すでに設置されてしまった以上は仕方がないので、今後は「稲むらの火」を教訓として、高台への避難の在り方について検証したい。避難場所や避難経路を分かりやすく案内する標識や、安全に高所へ上るための階段を整備しなければならない。いざというときに安全な場所への移動に要する時間が、すぐに分かるようにもしたい。停電で全くの暗闇を歩かなければならないという最悪の事態にも思いを寄せるべきだ。
 地震で倒壊した家屋や木々が避難道路をふさぐこともあるだろう。想定できることには可能な限り思いをめぐらそう。津波の日だからこそ高い防潮堤があるからと慢心せずに津波防災について考える日としたい。
(玉手匡子 磐城桜が丘高校同窓会長)

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