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【避難者と古里】絆の維持どうすれば(12月5日)

 東京電力福島第一原発事故後に初めて浪江町で開催された伝統の大露店市「十日市」には、県内外に避難している町民らが大勢訪れた。11月25、26の両日、会場の町地域スポーツセンターは震災前を思い出させるにぎやかな雰囲気に包まれ、懐かしい顔との再会を喜ぶ光景が多く見られた。古里を離れて暮らす町民にとって、伝統の祭りがいかに大事であり、心のよりどころになっているかを、改めて教えられた。
 一方、本来の十日市の会場である町の目抜き通りは、残念ながら閑散としていた。帰還者はまだあまり多くない。震災から7年近くがたち、避難者はそれぞれの移住先で新しい生活を始めている。帰還が進まない要因の一つはそこにある。帰還の条件となる除染や生活環境などの整備はもちろんだが、古里を離れて暮らす避難者とのつながりをどう維持していくか、被災市町村は、難しい課題に直面していると言える。
 会場では県や実行委員会が主催する民俗芸能の祭典「ふるさとの祭り」も開かれた。約20団体が神楽や踊りを披露し、涙ぐみながら舞台に見入る高齢者もいた。祭りや伝統行事が直接帰還に結び付くことはないかもしれないが、古里を愛する気持ちは湧く。今年の十日市は主催する運営委員会や町商工会の熱意と努力で盛況だった。だが、毎年開催するのは容易ではない。国や県はこうした催しにこそ、手厚い支援をすべきだ。
 時間の経過とともに、他の市町村に住民票を移す避難者もいる。そうした人たちとの絆を保とうとする飯舘村の取り組みにも注目したい。村民以外の登録者に公共サービスを提供する「ふるさと住民票」の制度だ。誰でも登録できるようにし、「ふるさと住民カード」を発行する。宿泊施設など公共施設を村民と同じ料金で利用できるようにすることなどを検討している。
 「ふるさと住民票」なら村外に住民票があっても取得できる。村内居住者と交流を図りながら、古里とのつながりを維持することが可能になる。村の応援団や村を訪れる人を増やして移住促進に結び付ける狙いもあるが、古里を離れて暮らさざるを得ない人たちには「古里とつながっている」証しになるはずだ。
 祭りや伝統行事、さまざまな制度を使って、避難者一人一人と古里の絆を丁寧に紡いでいきたい。被災市町村は復興している姿を発信し、つながりを維持してほしい。大切なのは、古里を思い続けてもらうことだろう。帰還はその先にある。(鎌田喜之)

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