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山の辺の道(12月5日)

 奈良にある「山の辺の道」は日本書紀にも登場し、歴史上最古の道とされる。奈良盆地東側の山裾を縫うように道筋が伸び、沿道には陵墓や古墳、遺跡、古い社寺が点在する。訪れる人を古代ロマンの世界へと誘う。
 会津若松市にも似たような小道がある。会津盆地東側の北青木と南御山の二つの集落を結ぶ。草むした道だが、近くには弥生時代の南御山遺跡、765年開基とされる照谷寺などの由緒ある寺が立つ。身不知[みしらず]柿の畑や棚田も広がり、丘陵地からの眺めは絶景だ。中世の会津文化は、この道を中心に築かれたとみる研究者もいる。
 道沿いの家で育ち、北海道大農学部長を務めた太田原高昭さんは、これこそ「会津盆地の山の辺の道」と発信してきた。農業経済の専門家ではあるが、郷土研究にも力を入れ、ルートを裏付ける本格調査の必要性を訴えた。新たな観光資源になり得ると信じた。
 熱い思いを抱きつつ、太田原さんは今年8月、闘病の末に帰らぬ人となった。道半ばの構想は地元有志に引き継がれる。「見晴らしのいい場所に腰掛けを置きたい」と夢の一端を話していた。そこで心の耳を澄ませば、当時の道行く人たちの足音が聞こえるという。

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