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匠の精神(12月16日)

 半世紀近く前のことだ。「ゾウが踏んでも壊れない」といううたい文句で売り出した筆箱があった。テレビのCMでは、実際にゾウが筆箱の上に乗る映像が流れ、頑丈さは世間の知るところとなった。
 その記憶がある世代なのだろう。会津若松市で紙箱を製造する老舗の9代目主人は、自らの商品を「僕が踏んでも壊れない」と言って、90キロを超すふくよかな体の胸を張る。わずか数ミリの厚さの紙を2枚貼り合わせて作るだけなのにこの丈夫さだ。主人は冗談でけむに巻くが、驚きの技というほかはない。亡き父親から学んだ。
 会津特産の漆器や菓子などを入れる箱を主に作ってきた。最近は会津木綿を表面に貼ったティッシュボックスなど新商品開発にも余念がない。布と紙の間に緩みがないように精密に貼り合わせる技術も、先代から受け継いだ。若い時分は反発したこともあったというが、今や感謝の念しか思い浮かばない。
 相次ぐデータ偽装、無資格検査…。ものづくりの国に暗雲が漂う。しかし、匠[たくみ]の精神は地方にこそ脈々と根付くと信じる。誠実な仕事が評価され、商品がもっと売れればいい。この国も捨てたものではないと思えるはずだ。

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