あぶくま抄・論説

日曜論壇

  • Check

イーゴリ公(12月31日)

 会津大学は今年、世界大学ランキングに初めて載った。日本の大学だけの順位だと13位タイに17校が入っており、その中の1校だ。東北では東北大学に次ぐ。
 会津大学の世界への挑戦は、世界プログラミング大会参加から始まった。ピョートル大帝が設立したサンクトペテルブルグ大学と同情報・機械・光学大学からの指導を受け、2008(平成20)年のアジア予選を経て翌年、ストックホルム世界大会へ進んだ。
 わが家でささやかな壮行会を開き、「世界トップレベルの100大学が参加するのだから真ん中でいいよ」と送り出した。結果はぴったりの49位。後で「もう少し頑張れと言えば良かった」と大いに反省した。表彰式の会場はノーベル賞の授賞式と同じ場所で、学生にとっては最高の記念になった。会津大学の下にはカリフォルニア工大など名だたる大学が並んだ。
 ロシアで第3位のノボシビルスク大学を訪問したことがある。幹部の方々に福島の状況を説明する機会が与えられ、熱心に聞いてもらえた。プーチン大統領肝いりのベンチャー育成機関が大学近くにあり、ソフトだけで年間600億円を売り上げると聞いた。会津ベンチャーとの交流の可能性も議論した。十数階建ての3棟のビルは最上階がガラス張りの廊下でつながっていた。シベリア平原の中心にあるとは思えない光景だった。
 町の中心にはオペラハウスがあり、オペラ「イーゴリ公」の公演が1500円ほどで鑑賞できると聞いて行ってみた。このオペラは東洋的で躍動感ある「韃靼[だったん]人の踊り」が有名だ。市内には日本人も学ぶ名門バレエ学校があるためか、素晴らしい群舞が楽しめた。
 イーゴリ公はキエフ大公国を治めた。今のウクライナの森林と湿原を中心とした地域だ。そのオペラの舞台が30年前に原発事故で汚染された。普段、湿原は孤立しているが、大雨になると川があふれてつながり放射性物質が平野に広まった。川に沿って上流から下流と流れがほぼ一方向の日本とは大きく異なる。100キロ下流には首都キエフがあり、飲料水は水源を切り替えて確保した。入域禁止区域では地下240メートルの白亜紀の地層から取水している。
 事故を起こしたチェルノブイリ原発4号機は1年前、鋼鉄製の巨大な格納庫で覆われた。しかし、プルトニウムは時間がたつと粉体になる性質があるので今後も難しい対応が迫られる。4号機は30年も風雨にさらされていたから地下汚染も大きなリスクだ。
 高濃度に汚染された家屋や木材は素掘りで仮埋設されている。その数は900カ所と推定されていた。ソ連崩壊時に、ソ連軍とウクライナ軍の関係は悪く、この仮置き場の情報は失われた。歳月をかけて忍耐強く調査が行われ、残り200までになった。これらも最終処分場への埋設が必要だ。
 福島第一原発では、秋から燃料デブリ掘削の予備エンジニアリングが始まった。必要設備、安全システムなどの試設計が進められる。来年はこれらが着実に進むことを期待したい。(角山茂章 会津大前学長)

カテゴリー:日曜論壇

日曜論壇

>>一覧