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趣味と論文(1月21日)

 趣味を問われた時、「論文書き」とでも答えようと思ったら、趣味の定義の中に「専門としてではなく、楽しみとしてする事柄」(広辞苑)とある。仕事は趣味ではなく、そうあってはならないと諭されているようだ。
 日本コンクリート工学会の年次論文集の原稿締め切りが毎年1月15日なので論文書きが年末年始の一大イベントだ。論文一編は図表を含めA4判6ページ、文字だけにすると約2万8000字。もう何十年も続いている。大学院生が何人もいると数編を同時に作成することになる。提出した論文は数名の研究者で査読審査され、2カ月後に結果が届く。このような論文を審査論文という。
 結果は4つに分類される。「採択」はそのまま論文集に登載、「条件付採択」は指摘されたことを修正すれば登載、「再査読」は指摘されたことを修正して再度審査され登載の有無が決定される。「不採択」は論文としては登載しないというもの。
 「採択」の判定はめったに無い。「条件付採択」や「再査読」になると再び締め切り日が設定される。昔は「○月○日消印有効」というので、真夜中に郡山郵便局まで車を走らせた。今はインターネット投稿。決められた日時に間に合わないと通信が遮断される。
 今年の年始は日本建築学会技術報告集に投稿した論文の条件付採択後の締め切りと重なり、研究室はダブルパンチで大忙しだった。
 学会の年一度の集まりでは、審査の無い発表用の論文を提出することが多い。ページ数は少なく、審査がないので気楽なように思われがちだが、間違いがあっても指摘されないまま公開されるので審査論文とは異なる慎重さが求められる。審査の無いものでも新しい研究成果を含むので、それを積み重ねて審査論文を書きあげる。
 研究業績は審査論文数で評価されるので、それを積み重ねるため、こんな作業が一年中繰り返される。時間が無い時に限って、所属学会から他の研究者の論文査読依頼が舞い込んだりもする。
 査読では研究の対象や内容を審査して、論文の新規性・独創性・発展性・信頼性などを評価する。査読は言葉の添削ではないが、読んでみると日本語の表現に間違いがある。そんな時、わが国の研究者であれば正しい日本語を書きなさい-などと思って、つづられている言葉を添削してしまう。
 論文作成中の大学院生には研究内容はもちろん、書く文章に責任を持ち、日本語・英語を正しく書きなさい、論文内容を質問された時、すべてに答えられる準備をしなさい-と指導している。
 趣味は読書と言えば納得されそうだ。しかし、読書で仕事に役立つ発想を得た時、その読書は趣味から外れてしまうのだろうか。
 書くことが専門ではないが、論文書きは研究者の仕事だ。書いている時、どのように表現するかと試行錯誤することが楽しいので、定義の「楽しみとしてする事柄」と思っている。論文書きの「試行錯誤が趣味」とでも言えばいいのだろうか。(出村克宣、日大工学部長)

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