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会津の宮大工に、敬意を(6月24日)

 会津若松市の野口英世青春通りに、小さな文化交流の拠点が生まれた。200年の歴史をもつ福西家の蔵造りの商家が、「福西本店」としてリニューアル・オープンしたのである。黒漆喰[しっくい]の店蔵、仏間蔵、そして母屋・座敷蔵・数奇屋・茶室など、大小の商家建築から成るというが、なかは迷路のように複雑な造りになっている。それにしても、なんとも豪勢な、遊び心に満たされた建築空間であることか。
 たまたまオープンのひと月ほど前に、案内していただく機会があって、すっかり魅せられてしまった。福島県立博物館による地域との連携プロジェクトの一環として、なにか支援をさせていただけないか。さっそく県博の学芸員が関わることになった。たんなる「見せる」建物には留[とど]まらず、人々が「つどう」「遊ぶ」「交わる」広場のような場所になると面白そうだ、と思った。
 オープンの数日後、県博が協力して、母屋蔵でささやかな座談会が行われた。60人を超える方々が参加してくれた。その流れで、10人ほどの飲み会となったが、それがまた、楽しい心はずむ語らいの場となった。「福西本店」は生まれたばかりの、ただ可能性だけはたっぷり抱えこんだ、育ててゆくべき文化交流の場である。講演会やコンサート、写真やアートの展覧会など、たくさんのアイデアが飛び出した。わたしはひそかに、ここは頑[かたく]なに、ホンモノと出会うことができる場であってほしい、と願う。それだけ、関わる者たちはみな、緊張を強いられることだろう。
 じつは、この再訪の折りに、美しく整えられた建物のなかを見て回るうちに、なにか既視感のようなものを感じたのだった。喜多方の「甲斐本家」と同じ匂いがするね、そう、振り返りながら言うと、同行の学芸員からは思いがけぬ答えが戻ってきた。彼女はいくらか誇らしげに、そうですよ、建てられた大工さんが一緒ですから、と答えたのだった。
 それから、彼女はさらに衝撃に満ちた言葉を言い添えた。山岸さんという、さざえ堂を建てた山岸喜右衛門の子孫の、大工の棟梁[とうりょう]ですよ。いま、うちでやっている特別展「匠[たくみ]のふるさと会津」のなかにも、登場していますから…。むろん、展示は見ている。頭のなかが混乱状態に陥っていた。ゆっくりとパズルのピースがはまってゆく。
 さざえ堂は近年になって、さらに、独創に満ちた日本建築のひとつとしての評価を高めている。そのさざえ堂を建てた会津の宮大工の一族が、福西本店と甲斐本家という、会津を代表するすぐれた商家建築を建てていたのである。驚きではあったが、たんに、わたしが無知であっただけだ。
 福西本店の、庭に面した2階には、竹を材に使った数奇屋がある。かつて芸術家たちが招かれ、滞在し、作品の制作にしたがった部屋である。会津若松のもうひとつの顔を見つけたようで、とても嬉[うれ]しい。
 そう言えば、特別展「匠のふるさと会津」は、本日が最終日である。(県立博物館長 赤坂憲雄)

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