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平成の政界捜査の一断面(7月1日)

 来年の4月30日に平成の時代は終わる。次の元号も年内には決まるという。一抹の寂しさと新しい時代への期待感が交錯する。
 過日、日本記者クラブで講演をした。「平成とは何だったのか-平成の事件・疑獄史」という演目で、聴衆、聞き手には、マスコミ各社の司法記者、編集者、ジャーナリストなどが参集した。特捜検察が摘発した疑獄事件等に光を当て、その事件捜査を通して平成という時代を捉えてみるという企画だった。
 昭和の末年ころ、私は東京地検特捜部で政財界等の隠れた犯罪を摘発する指揮官としての仕事に従事していた。忘れもしない昭和63年6月18日、朝日新聞朝刊に「リクルートコスモス社の未公開株が公開直前に、川崎市の幹部(助役)に譲渡され、1億円余の利益を供与した」旨の記事が社会面トップで報じられた。特捜部の捜査の端緒となる記事だった。世の中の人々は、この時点では、まだことの重大さには気付いていなかった。私は特捜部副部長として、動物的直感で「これは大きな事件になるのではないか」と受け止めた。秋頃から30人前後の検事でリクルート事件捜査本部を立ち上げ、平成元年2月強制捜査に着手し、その後、NTTルート、文部省ルート、労働省ルート、政界ルートの4班体制で約8カ月にわたって捜査を遂げ、最終的には、NTT元会長、両省元事務次官、元官房長官ら2名の代議士らを起訴することとなった。途中で竹下政権は崩壊した。私にとってリクルート事件は、検事生活36年間で最大の事件であった。昭和時代のロッキード疑獄事件と肩を並べる「平成の始まりの疑獄事件」であった。
 その5年後の平成5、6年には、私は東京地検特捜部長として、複数のスーパーゼネコンと元建設大臣らにかかる贈収賄事件を摘発し、社会を揺るがしたことも記憶に鮮明に残っている。この事件では、現職の国会議員を会期中に逮捕することになり、衆議院に「逮捕許諾請求」を行ったことも忘れがたい。衆議院議長は社会党の土井たか子党首だった。
 最近は、社会が安定したからなのか、特捜部を取り巻く捜査環境が厳しくなったせいからなのか、特捜部が政界の事件に手を付けることが激減している。かつて、検察の大先輩で、私の恩師でもある吉永祐介元検事総長は「利権のあるところ、必ず汚職あり」と喝破された。巨悪は必ず息を潜めて姿を隠しているものだ。近時、現政権を巡って森友、加計問題が大きくクローズアップされ、国会で野党の追及がほぼ1年も続いた。大阪地検特捜部の捜査で、政権側は、財務官僚等も含め、刑事責任に問われた者は一人もいなかった。一連の大騒ぎは何だったのかというむなしさが国民大多数の心に残ったのではあるまいか。平成は、間もなく幕を閉じることになる。
 (宗像紀夫 内閣官房参与・弁護士、三春町出身)

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