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【高倉健さん追悼展】鑑賞したい貴重な映像(7月11日)

 日本映画史に残る数多くの名作に出演した俳優高倉健さんの追悼特別展が、十六日までいわき市立美術館で開かれている。高倉さんの映画俳優としての足跡を、出演作品の抜粋映像を通して振り返る。作品に関わる全ての映画会社の協力を得て、出演した全二百五作品を網羅した。思い出がよみがえったり、今まで知らなかった魅力を感じたりするはずだ。
 一九五六(昭和三十一)年、東映の社員として映画デビューした。一九六〇年代、任侠[にんきょう]映画で人気を博し、時代を象徴するスターとなった。「死んでもらいます」の決めぜりふと映像を重ね合わせる人は多い。東映から独立後は出演作が多様になるが、どのような役でも信義を貫く実直な姿は変わらなかった。口癖だった「器用なたちではないですから」の言葉通りの人柄が、役の上にもにじみ出ていた。
 特別展では、映画の名場面や印象的なシーンが、製作年代ごとに二十二台のモニターと七台のプロジェクターに映し出される。一作品当たり十五秒から二分ほどで、短く感じるかもしれないが、全てを見るには二時間かかる。
 全作品を最初から最後まで鑑賞し、ここぞという場面を選び出した映像編集者に敬意を表したい。デジタルデータ化されていない作品は、原版のフィルムを修復しながら作業したという。色調も上映時に合わせて忠実に再現した。
 美術館は美術品の収集、保存、展示を主な業務にしている。所蔵品以外を披露する企画展開催に当たっては芸術的価値を重んじる傾向が強い。作家や作品の人気が開催に直結するものではない。映像作品は専門家が限られているため、美術館が映像展を手掛けることは異例だ。文化勲章を受け、出演作品の芸術的価値が高いと評価された証しでもあるが、見る側の立場に立ったいわき市立美術館の英断ともいえよう。
 高倉さんは東日本大震災に心を痛め、被災者を気遣っていた。芸能人の被災地慰問が相次いだころ、「自分は役者として作品で勇気づけたい」と自らの生業[なりわい]に力を入れた。最後の主演作となった「あなたへ」の台本には被災した少年の写真を貼り、演技に思いを込めた。所属事務所の関係者は、特別展のいわき開催を「被災地で実現でき、高倉も喜んでいるはず」と語る。
 今回制作した抜粋映像の使用期限は二年で、特別展はいわきの後、岡山、長崎を巡り十一月で終わる。「健さん」に会える貴重な時間は残りわずかだ。(鈴木俊哉)

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