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兼定と長道(7月12日)

 会津の伝統産業といえば、酒や漆器を思い浮かべる人は多い。鍛冶を挙げる人はどれほどいようか。江戸時代から長年にわたり地域に欠かせない「ものづくり」として発展した。武士に刀、農家にくわ、きこりにのこぎりを提供した。
 会津藩は腕の立つ刀匠を抱え、数々の名品を生みだす。「会津五鍛冶」と呼ばれる五つの刀鍛冶がしのぎを削った。中でも古川兼定[かねさだ]と三善長道[みよしながみち]の作は藩士の憧れだった。ともに「切れ味は誰にも負けない」と譲らない。
 五代藩主の松平容頌[かたのぶ]はどちらが優れているか試したという。二人を城に招き、真綿を切るように命じた。兼定は真っ二つにしたが、長道はわずかに切り残した。面目をつぶした長道は城を後にする際に言い放つ。「刀は甲冑[かっちゅう]を断つためにある。真綿を切るものではない」。豪快に城門の鉄の塊を切り落とした。
 刃[やいば]の鋭さは柔らかい真綿も、硬い鉄も二分にする。名匠の魂も宿る。日本の精神文化を象徴する美の境地である。十三日に会津若松市の県立博物館で企画展「美しき刃たち」が始まる。兼定と長道の銘が刻まれた逸品も、全国の名刀とともに並ぶ。どのような輝きを今の時代に放つのか。楽しみだ。

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