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漱石とターナー(7月31日)

 英国の著名な画家にターナーがいる。十八世紀後半から十九世紀中ごろに生きた。嵐の海景や崇高な山、穏やかな田園風景…。英国内はもとより、欧州各地を旅し、卓越した技法で数多くの風景画を生み出した。
 夏目漱石の小説「坊ちゃん」に名前が登場する。<あの松を見たまえ、幹がまっすぐで、上が傘のように開いてターナーの画にありそうだね>。教頭の赤シャツが得意げに話す。漱石は一九〇〇(明治三十三)年から二年間、英国に留学している。精神的に病んだ時期でもある。その際に出合った名画によほど心引かれたに違いない。
 とはいえ、どの作品を指して書いたのかは定かでない。なにせ、木々が描かれているものはたくさんある。郡山市立美術館で九月九日までターナーの企画展が開かれている。明治の文豪になったつもりで、一つ一つをじっくりと眺めてみる。「漱石が愛したのもうなずける」。そんな作品にめぐり合えれば、鑑賞の楽しみは増す。
 夏は旅の季節でもある。海や山、行楽地は多くの人出でにぎわう。繰り出す前に、ターナーの世界にどっぷりと浸るのもいい。旅先で目にする何げない光景が少し変わって見えてくる。

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