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キツネ目の男(8月18日)

 キツネ目の男-。三十五年ほど前、一枚の似顔絵が世間の話題をさらった。グリコ、森永など阪神地区の大企業の商品に毒を入れると脅した犯人グループの一人と疑われた。しかし、行方はついぞ知れなかった。
 当時、作家の高村薫さんは大阪で会社勤めをしていた。キツネ目の男に似た社員がおり、捜査員が何度も訪ねてきた。その経験が、事件を基にしたミステリー「レディ・ジョーカー」を書くきっかけになったという。代表作が生まれた秘話を福島民報社のインタビューで明かした。
 NHK取材班による「グリコ・森永事件 捜査員300人の証言」(新潮社)が一カ月ほど前、文庫化された。口の重い関係者に粘り強く当たり、迷宮入りの背景に迫る。広域犯罪だが、連携が不十分だった。現場の意見があまり尊重されず、捜査方針が柔軟でなかったなどの反省点が浮かび上がる。キツネ目の男に力点を置き過ぎたとの見方もあった。
 事件が未解決に終わることにより、同時代に生きる人の中に「穴」があく。高村さんはそう嘆く。教訓をどう生かすべきか。警察だけにとどまらない。意思疎通を図り、風通しを常に良くせよと多くの組織に教える。

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