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【新「圏域」の議論】地方の意欲に水差すな(8月29日)

 政府は市町村の広域行政の新たな枠組み「圏域」を行政主体として法制化する方針を打ち出した。人口減少を踏まえて、まちづくり、医療や教育の充実などに取り組む態勢を整えるという。正直「またか」という感がする。過去にも多くの枠組みを設けており、どう違うのか判然としない。特色ある地域づくりにまい進する市町村を混乱させ、地方創生の意欲に水を差さないよう丁寧な論議を求めたい。
 安倍晋三首相が七月、地方制度調査会に諮問した。二年以内の答申を求め、必要な法整備を図る方針だ。
 人口減少と高齢化が深刻になる二〇四〇年ごろの地方自治体の在り方を想定している。議論のたたき台となる総務省の有識者研究会報告書によると、地方の九割以上の市町村で人口減少が見込まれ、市町村単位の施策では暮らしが維持できなくなると指摘。複数市町村による圏域を設けるほか、圏域を構成できない小規模市町村については都道府県が支援するとした。
 理由はもっともだが、広域行政の枠組みは半世紀前に導入され、目新しくはない。広域市町村圏(一九六九年)、ふるさと市町村圏(一九八九年)、定住自立圏(二〇〇八年)、連携中枢都市圏(二〇一四年)が代表的だ。消防、ごみ処理などで連携する広域市町村圏は本県でも多くの地域で採用され、定着している。時代が下るにつれて経済振興、観光、医療などに施策の重点が移っており、県内での取り組み事例は少ない。
 行政主体として法的に位置付けられる圏域は市町村の権限に制限を加え、新たな合併の呼び水になりはしないか。従来の広域行政より権限が強まるように映る。都道府県の関与を認めるのは独自性を重んじる地方自治制度の本旨に反しないのか。
 地方からは慎重議論を望む声が上がる。調査会の席上、全国市長会の立谷秀清会長(相馬市長)は市町村が地方創生に向けた取り組みに専心している現状を踏まえて「圏域法制化は唐突」と発言。全国町村会の荒木泰臣会長(熊本県嘉島町長)も「選択可能な制度や仕組みを準備し自治体が主体性をもって選択実行することが重要」と訴えた。
 地方自治体の望ましい姿を論じる必要性は分かる。ただ、行政の枠組みは住民生活に直結する。政府は過去の広域行政を総括した上で、新しい圏域の内実を説明する責任がある。当事者である地方の理解を得た上で政策を決定すべきだ。住民自治を軽んじる政府主導の地方制度改変は賛同を得られまい。(鞍田 炎)

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