あぶくま抄・論説

あぶくま抄

  • Check

サンマとブレーキ(9月5日)

 作家吉村昭さんの小説「破船」に、家族四人が一匹のサンマを分け合って食べる夕げの場面がある。初めて漁に出た主人公の少年が苦心の末、ようやく得た。弟と妹はわずかな身を無心に口にする。少年は小さな魚がもたらす幸福感をかみしめる。
 サンマ漁の最盛期が近づいてきた。昨年までは小名浜港の水揚げが三年連続で最低水準の千トン台にとどまるなど、歴史的な不漁となった。値上がりし、庶民の味が遠のいた苦い記憶がよみがえる。今年は漁獲量が増えている。県内のスーパー店頭では、家計に優しい価格で販売されているようだ。
 不漁は海流や水温の変化が原因の一つとされる。公海での諸外国による大量捕獲が影響しているとの見方もある。乱獲を防ぎ資源を守るため先ごろ開かれた北太平洋漁業委員会で日本が漁獲枠を提案した。中国などが反対し協議は決裂した。
 小説では海の恩恵を自分勝手に解釈した漁民に、悲劇的な結末が訪れる。クロマグロ資源管理に関する国際会議が七日まで福岡市で開かれている。一匹の価値を思い、ともすれば先走りがちな欲望に自制というブレーキをかけたい。人間だからこそできる自衛策の一つである。

カテゴリー:あぶくま抄

あぶくま抄

>>一覧