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【免許自主返納】高齢者を見守る社会に(9月19日)

 運転免許証を自主返納した高齢男性が乗用車を運転して事故を引き起こす事例が今月、県内であった。高齢者による自主返納が進む中、無免許運転は今後も発生しかねない大きな問題と捉える必要がある。
 県内の過去十年間の返納状況を見ると、二〇〇八(平成二十)年が六百三十六件だったのに対し、二〇一三年は千二百三十五件、二〇一四年は千六百十一件、二〇一五年は二千六百二十三件、二〇一六年は三千五百十九件と年々増えている。昨年は認知機能検査を強化した改正道交法の施行に伴い、五千十一件と十年前の八倍に達した。今年も七月末現在で三千五百六十三件に上る。
 警察署は、返納者に対して運転が一切できなくなると伝える。さらに、他に利用者がいなければ車を処分し、家族らが使用する場合は鍵を別途管理・保管するよう働き掛けている。
 返納者を支援する取り組みは全国的に活発だ。県内でもバス、タクシーなどの交通手段の利用券を交付したり、料金を補助したりする市町村が増えている。福島商工会議所と福島市商店街連合会の会員事業所は商品の値段を割り引くなど民間にも広がる。
 こうした動きに対して京都、兵庫両府県の北部地域の大学などでつくる政策集団「北近畿地域連携会議」は警鐘を鳴らす。高齢運転者に画一的に返納を求めるのではなく、公共交通機関が不十分な都市部以外では、免許の継続を支援するべき-との提言をまとめた。地方での免許返納は高齢者の生活圏の縮小や社会的交流の減少をもたらし、ひいては地域社会の崩壊を加速させかねないというのが理由だ。
 県内にも当てはまる部分はある。車に頼らざるを得ない環境であれば、どんな支援があっても免許証を返すのにためらいが生じる。送迎してくれる家族や知人が近くにいなければ、家に閉じこもりがちになり、健康上の問題も出てくるだろう。
 その背景は過疎化、高齢世帯の増加など今日の地域社会が抱える構造的な課題ともつながる。返納を促し、無免許運転を防ぐには、交通網の整備や交通費の補助といった移動に関する支援策だけでは十分とは言えない。どんな不便を来すのかを聞き取り、個別に対応する細やかさがあるべきだ。
 自治体や警察に加えて、家族や地域社会が一体となって返納後の高齢者の暮らしを見守る仕組みづくりも考えたい。(五十嵐稔)

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