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幻の果実(9月25日)

 詩人の谷川俊太郎さんに「ポポー」という随筆がある。果実の一種で、園芸趣味の伯父が育てていた。「黄色いねっとりとした独特な香りのある果肉を、さじですくって食べるのである」と記す(新潮文庫「ひとり暮らし」所収)。
 名のある詩人が取り上げるほどなのに、ポポーはどれだけの人に知られていようか。「自宅の庭にあるから毎年味わっている」「旅先で会った人に、ごちそうになった」。時にそんなうわさを耳にする。県内各地でも確実に栽培されているのだろうが、現物にお目にかかることはめったにない。かなり不思議な作物である。
 アケビに似た形をした実は、収穫したばかりならば、薄緑色をしている。だが、一晩置いただけで、皮の全体が黒ずんでしまう。園芸書にも「果実が傷みやすく流通が難しいことから、幻のフルーツと呼ばれています」とある(野田勝二監修「はじめての果樹」)。店頭にいっこうに並ばない理由らしい。
 モモの季節がほぼ終わり、みずみずしいナシやブドウがおいしい。ポポーもちょうど旬を迎えたという。どこかで出合えないものか。せめて一口だけでも味わえれば「果物王国」への思いも一層増すのだが。

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