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神様になった会津人(10月23日)

 明治時代、ある会津人は裏表のない発言と行動で北海道日高地方の未来を切り開いた。少年期に戊辰戦争を経験した西忠義[にしただよし]だった。若松県職員から警視庁に抜てきされ、さらに北海道の浦河[うらかわ]支庁長となる。襟裳岬[えりもみさき]から北西に広がる管内を開発し、「サラブレッドのふるさと」の礎を築いた。
 国営の日高種馬牧場を誘致するために奔走した。政府に要望する際、座っている高官に詰め寄った。相手の膝をたたきながら日高地方の現状を力説した。立派な施設ばかりを視察せず、へき地にも赴いて、現実に目を向けるよう訴えた。上下関係の厳しい時代に極めて礼を欠いたが、高官は熱血漢に押し切られた。
 牧場が完成し、輸送用の道路も整う。舟で渡っていた川には橋が架かった。港も充実し、経済が勢いづく。教育、福祉も向上した。住民は恩人を慕い、西神社を創建した。神様になった西を支えたのは正義を貫く会津の教えだった。
 文部科学省の新しい事務次官は「面従腹背[めんじゅうふくはい]をやめよう」と職員らに求める。内面で逆らいながら、従うかに見せる裏表ある心を改め、本音を言い合う職場を目指す。「ならぬことはならぬものです」。簡単なようで難しい。

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