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萌えない(11月4日)

 福島市の郊外で独り空を見つめ、たたずむ男性がいる。視線は何かを捉え続ける。送電線の鉄塔を眺めているという。無数の鉄骨が複雑に絡んで描く、幾何学的な形に美しさを見いだす。「萌[も]えるんですよね」。都内から来た男性は屈託なく笑う。
 東京電力は福島第一原発4号機の使用済み核燃料プールの写真を「#工場萌え」として、検索用の記号と言葉を添え、ネットに載せた。工場の織りなす景観が好きという人の間で交わされる言葉である。ただ、「萌え」という語感に違和感を覚える人は少なくなかった。
 元々は若芽が伸びる様子を指して言う。最近は若者を中心に漫画やアニメの登場人物への興味、愛着を示す意味として使われることも多くなった。今回は原発の様子を伝える光景として掲載した。だが、「原発事故への反省はないのか」など反発の声が高まった。
 思慮に欠ける言い回しは、時に人を傷つける。県民は廃炉作業や地域再生の動きをこれからも注視していく。一枚の写真と短い文章だけで原発の今を発信するには、限りがあるだろう。ありのままを直接、丁寧に県民に伝え、理解を得る地道な取り組みこそが東電に求められている。

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