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日産、不正生む土壌今も(11月25日)

 労働問題の担当記者だった一九八〇年前後のこと。自動車総連の塩路一郎会長から各メディアの記者に「懇談しませんか」という声掛けがあり、出席した。労働戦線や政治活動でも注目される存在であったからである。
 懇談会が終わると「二次会に行きましょう」と誘われた。わたしは別件があり行かなかったが、場所は銀座の高級クラブだった。そこに行った記者が驚いたように翌日話してくれた。塩路氏はホステスに囲まれ「ブランデーの牛乳割り」なるものを豪快に飲む。常連だったようで、その姿は「労働貴族」そのものだったという。
 塩路氏は日産自動車の社員で労組の組合長となり、川又克二社長とタッグを組み、争議もしばしば起きていた労使関係を改善。「労使一体化」を打ち立て、日産をトヨタに次ぐ自動車メーカーに押し上げる。
 その功績をバックに次第に社内の役員を含めた人事まで口を差し挟み、経営にも介入し「塩路天皇」と呼ばれた。自動車産業の労組を糾合して自動車総連を結成して会長に就任、絶大な権力を握る。
 しかし、日産の社長が蜜月関係の川又氏から石原俊氏に代わると、対立が始まる。石原氏が進めようとする英国進出に対し、塩路氏はストをちらつかせて反対した。
 この争いの中で、塩路氏の労働貴族ぶりが次々に暴露される。銀座通いはもちろん、豪華なヨットの所有、それに女性を乗せてのクルージング、広大なマンション、さらには女性問題。塩路氏は批判にさらされ力を失っていく。
 こんな優雅な生活資金がどこから出ていたのか。組合費を流用したわけではなかったようなので、多分、日産から出ているのではないかと噂[うわさ]された。
 その日産でカルロス・ゴーン代表取締役会長(二十二日解任)が東京地検特捜部に逮捕された。五年間で百億円近い報酬を取りながら、約半分しか申告・公表していなかった疑いである。会社の資金を私的に流用していたとも指摘されている。
 ゴーン容疑者は日産が苦境に陥ったとき、提携先のフランス・ルノーから送り込まれたトップ。徹底した合理化、削減策で日産を立て直したとして「カリスマ経営者」とされた。
 権限を一手に握っての経営手法は、しばしば腐敗を生む。ゴーン容疑者も例外ではなかったということだろう。ゴーン容疑者の不正は日産内部からの告発が端緒だったという。塩路氏のスキャンダルも日産内部からのリークではないかと当時見なされていた。
 企業の内部腐敗を事前にチェックし防ぐガバナンス(企業統治)機能はマヒしていた。「天皇」や「カリスマ」の不正をただすのに、メディアへのリークや検察の力を借りる。似た手法であり、内部統制の土壌がないことの裏返しでもある。日産の病根は根が深い。(国分俊英、元共同通信社編集局長、本宮市出身)

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