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利に惑うは愚かなり(1月6日)

 新しい年を迎えた。読者の皆様、あけましておめでとうございます。今年は「平成」最後の年。五月からは新元号に切り替わることが決まっている。今年は、いろんな意味で歴史的な年になるだろう。新元号に、日本の希望を託したいものだ。
 改まって平成とはどんな時代だったのか振り返ってみると、いろいろな思いが去来する。
 私事に渡るが、平成元年当時、私は、ただ、ただ猛烈に忙しかったという強い印象が残っている。当時、東京地検検事として特捜部に在籍し、いわゆるリクルート事件捜査に主任検事として従事していた。三十人余の検事らを指揮し、政・官・財界の不正を暴き、最終的に藤波孝生元官房長官ら国会議員を筆頭に、旧労働、文部両省事務次官ら、元NTT会長らを起訴した思い出深い年である。平成は日本の社会にとっても激動の幕開けだったのである。
 そして、昨年十一月には、東京地検特捜部が、日産元会長カルロス・ゴーン氏を金融商品取引法違反で逮捕、続いて特別背任罪で再逮捕するという衝撃的な事件が発生した。同事件の捜査は今年に入っても続いており、平成の幕閉めの年も、嵐が収まる気配はない。
 ゴーン氏の金融商品取引法違反事件は、十年近くもの間、役員報酬が実際には年額二十億円であったものを十億円である旨会社の重要な報告書に過少、虚偽の記載をしたというもので、その得ていた報酬の多額さにも驚くが、半分は退職後にもらうような工作をして隠蔽[いんぺい]していたというその狡猾[こうかつ]な手口、悪質さにも目を剥[む]く人が多いのではないか。また、特別背任罪は、自己が取引して被った巨額の損失を日産に付け替えたという横暴ぶりだ。吉田兼好がその著書「徒然草」の三十八段で、「利に惑うは愚かなり」と喝破したとおりだと思う。人に知られては困るような常識はずれの報酬は手にすべきではないということなのではないか。
 平成全体を通してみると、阪神淡路大震災、東日本大震災という多数の死傷者を出した二つの大災害をはじめ、大型台風による甚大な被害など自然災害が相次いだ。これからも、南海トラフ地震などの発生が危惧されており、日本列島は安泰とは言えない状態だ。しかし、日本人は今後も、叡智[えいち]を結集して難題を解決していくだろう。
 ところで、最近は、ところ構わずスマホに熱中し、周りに気を配らない自己中心的な人々が多いが、この新しい時代に向けて「自己の利益のみにとらわれず」「他者にも目を配る」という意識の変革が必要だと考えている。
 世界的にも、米国のトランプ大統領を始め多数の国のトップの政治家などに、自国中心的な思考が強まっているが、戦前回帰を思い起こさせる危険な徴候のように見える。他国との融和、共生の思考への転換を強く希求したい。(宗像紀夫 内閣官房参与・弁護士、三春町出身)

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