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滝富士(1月9日)

 いわき市遠野町滝の滝富士は緩やかな道が続く。一時間ほどで三〇六メートルの頂にたどり着く。山と渓谷社が選んだ「ふるさと富士百名山」に名を連ねる。冬の晴れた日に望む海がまぶしい。
 地域の暮らしは山とともにあった。群生するカヤを刈って屋根をふき替えた。サカキを採り、神棚に供える。薪炭材、家畜の飼料となる草をもたらした。頂上に人々の信仰を集める小さなほこらがある。「おふんちゃま(お富士さま)」と敬われた。毎朝、山に手を合わせて感謝する人もいた。
 〈不尽[ふじ]みても富士とはいかに みちのくの磐城の山の雪のあけぼの〉。滝富士を詠んだとされる和歌が伝わる。出典も詠み人も定かではない。何度見ても世に二つとないはずの富士がある。雪が降った夜明けの美しさを表した。「富士」に「不二」の意味を重ねる。石城[いわき]山岳会の創立六十周年記念誌「いわき市とその周辺の山々」に歌がつづられる。
 時が流れ、人と山の関わりは薄くなった。温暖ないわきで、雪化粧にはなかなかお目にかかれない。道には落ち葉が積もり、ふわふわと歩きやすい。年の初めの富士登山はめでたい。裾野のような運気の広がりに期待して歩を進めよう。

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