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よみがえれ葛尾の酪農 震災から7年10カ月

 葛尾村落合の佐久間牧場は東日本大震災から七年十カ月となった十一日、原乳の出荷を再開した。東京電力福島第一原発事故後、旧避難区域では三例目で村内では初めて。村内で酪農を営んでいた仲間の協力で復活した。今後、出荷量を増やすとともに六次化商品開発や雇用創出を目指す。専務の佐久間哲次さん(42)は「消費者に安全・安心な牛乳を届け、村を支える産業に育てる。被災地の酪農家に勇気を与えたい」と決意を新たにしている。
 この日出荷した原乳は、十三~四頭から搾乳した約七百三十五リットル。十一日午前、集乳トラックで本宮市の東北協同乳業に運ばれた。佐久間さんは「やっとスタートラインに立てた。この七年十カ月は、二十歳で酪農を始めて被災するまでの十五年間より長く感じた」と振り返る。
 震災前、佐久間牧場は約百三十頭の乳牛を育て、原乳出荷量は県内有数規模の一日約二千七百リットルに上った。原発事故で幼いわが子を連れ、県内外に避難した。家族同然の牛を処分せざるを得なかった。処分する前に餓死した牛の姿が脳裏に焼き付いた。「逃げて良かったのか」と罪の意識に苦しんだ。一時は県外での再開を考えた。
 二〇一二(平成二十四)年に牧場を法人化した。政府は二〇一六年十二月、帰還困難区域を除き村の原乳の出荷制限を解除した。「ここで踏ん張らなければ村の酪農は成り立たない」と村内での再開を決めた。
 昨年四月に避難先から家族と帰還し、九月に酪農を再開。農林中央金庫から乳牛調達費用と牧場運転資金として一億円の融資を受けた。自社栽培の飼料用トウモロコシの放射性物質対策を徹底した。風で舞い上がった周囲の土や落ち葉などが牛舎内に吹き込まないよう囲いを強化した。北海道から仕入れた乳牛八頭の原乳は十月から十二月まで県の検査を計十六回受け、放射性物質は全て不検出だった。
 震災前、村内でもう一戸、酪農を営んでいた古舘敬一さん(41)が再開に協力した。避難で牛の飼育を断念し郡山市で事務員や配達員として働いた。佐久間さんに誘われ、昨年四月から共に働き始めた。今は役員として勤務する。スタッフ四人は三、四十代と若く、経験者は佐久間さんと古舘さんだけ。古舘さんは「震災前の生活に戻れてうれしい」と充実感をにじませる。
 震災前に使っていた牧草地は帰還困難区域にあり、当面は輸入牧草を与える。現在、保有している四十頭を震災前の百三十頭まで増やすには、出産の管理と子牛の育成に多大な労力が必要になる。人手が足りない。二人は経営が軌道に乗れば雇用につながることを期待する。
 今後、六次化産品としてチーズやチーズケーキ、ジェラートなどを村内外で販売する構想がある。佐久間さんは「明るい話題を発信したい」と誓う。牛たちの顔をなで、笑みがこぼれた。「大切にするよ。長生きしてな」

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東北協同乳業の担当者と集乳作業を笑顔で見守る佐久間さん(右)
東北協同乳業の担当者と集乳作業を笑顔で見守る佐久間さん(右)

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