あぶくま抄・論説

日曜論壇

  • Check

山火事(1月13日)

 一九七五年の九月、米国GE社と共同研究開発を行うことになり、カリフォルニア州のサンノゼ市に赴任するためサンフランシスコ空港に向かった。着陸時に山側の景色が緑でなく、灰色がかった乾いた草原なのが印象的だった。この地域は、乾燥した山火事が起きやすい夏、雨が降る秋、そして湿度のある温暖で過ごしやすい気候の冬が典型的だ。
 ただ昨年は従来と異なり、温暖化の影響と言われているが秋に雨が降らず、湿度は10%台にまで下がり、十一月八日に発生した大規模な山火事は猛威を振るい二十五日にやっと鎮火した。延べ八千人の消防隊員が消火に当たったが、空気の汚染はすさまじく、消防作業は困難だった。地球温暖化の影響で、このようなすさまじい山火事は今後増加すると警告されている。
 一方、一昨年の五月の連休前後に帰還困難区域の十万山で山火事が発生したが、燃えたのは主に落葉堆積物や木の表皮だった。しかしカリフォルニアのように温暖化で乾燥が進むと樹木自体も燃焼することが考えられる。温暖化が福島の山火事にどのように影響するか、チェルノブイリであった森林火災とも比較して考えて見た。
 福島とチェルノブイリの森林の大きな違いは、放射性核種の差だ。チェルノブイリは原子炉本体が爆発し、格納容器がもともと無いのでプルトニウムが外部に放出された。広い地域が未[いま]だに立ち入り禁止となっているので、火事の発生による立ち入り禁止区域外への汚染の可能性は低いが、消防士の内部被ばくに対する懸念が高く、大気中への放射性物質の飛散の研究が行われている。大規模な野焼き実験も行われ、吸入被ばく線量はプルトニウムが支配的で、セシウムによる被ばくは数桁低いことが示されている。
 十万山の山火事では、居住地域が近いので生活圏への影響を懸念して、火事直後に空間線量率に加えて、大気中の浮遊物や火災現場付近の沢水の調査が実施されたが、特段の変化は見られなかった。これは、山火事の影響を受けやすい落葉堆積物中に、事故直後は森林中のセシウム全体の90%が存在したが、火事が起きた事故後六年では10%程度と低下し、多くが土の浅い層に移動したためだ。
 また、森林からの土砂流出に伴うセシウム流出についての調査では、山火事直後は落葉堆積物が焼失して土砂流出が増加したが、下流の生活圏内の河川ではセシウムの変化は見られなかった。その後、新たな落葉の堆積等があり、土砂流出量は以前と同じ水準に戻りつつある。更[さら]には、三年前の春の伊達市と南相馬市の山火事でも十万山と同様に空間線量率の上昇は見られなかった。
 継続的な注意深い観測は必要だが、地球温暖化の影響が県内で見られたとしても山火事による周辺環境への影響は小さいと考えられ、今後は消防士が安全でかつ行動しやすい防護服の工夫などが必要ではないかと思えた。(角山茂章、会津大学前学長)

カテゴリー:日曜論壇

日曜論壇

>>一覧