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思い出紡いだ信夫山(2月10日)

 埼玉県で暮らす専門学校二年の女子学生は、旅行のため飛行機に乗った。東京の羽田空港から北海道に向かう。雲はなかった。離陸して二十分ほどで、盆地の真ん中に小島のような形を見つけた。信夫山と、すぐに分かった。
 福島市で育った。四月から都内の会社に勤める。「なかなか帰れなくなるかも」。上空から携帯電話のカメラに収めた。祖父母は麓の近くに住んでいた。幼い頃、山にある公園に連れられ、よく遊んだ。家族そろっての初詣は必ず、中腹の護国神社だった。さまざまな思い出を紡いだ。
 周囲は約七キロある。羽黒山、羽山、熊野山の峰が並び、標高二七五メートルの羽山が最も高い。昔から山岳信仰の地としてあがめられた。豊かな自然に包まれ、人々に親しまれる。一月末、市内でシンポジウムが開かれた。さらなる憩いの場とする手だてを探った。
 「信夫三山暁まいり」が十、十一の両日、繰り広げられる。初日は、若衆が大わらじを担いで峰の一つに登り、羽黒神社に奉納する。参拝客は五穀豊穣[ほうじょう]や学業成就、健康を祈る。就職を控えた彼女は研修に参加し、来ることができない。寂しくはない。古里の山は、いつでも優しく迎えてくれる。

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