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第3部 <31>   
 南相馬   混 迷(上) 
対立に揺れる飯舘村 村民に広がる戸惑い
2004年10月1日 掲載 
 合併特例法の優遇措置適用期限となる来年三月までの知事申請を半年後に控え、合併協議を進めてきた県内の市町村に大きなうねりが起きている。新たな市や町の誕生に向けて着々と準備する市町村がある一方で、合併協議会からの離脱や協議会の解散など枠組みにきしみが生じるケースも相次いでいる。将来の自治体の在り方を大きく左右する「平成の大合併」。合併か自立か。ゴール目前で今、市町村で何が起きているのか。それぞれの道を模索する姿を追った。
黄金色の田んぼは刈り取り作業の最盛期。今年は豊作だが…
 阿武隈山系の真ん中に位置する飯舘村。黄金色の田んぼでは稲刈りが最盛期を迎えていた。今年は冷夏だった昨年とは打って変わって豊作だ。のどかな風景は平和そのものだが、村民の表情はどこかさえない。顔を合わせれば合併か村長選の生臭い話をせざるを得ないからだ。

 「合併をめぐっては家族の中でも意見が分かれてしまっている」。農業を営む浜野邦男さん(62)は困っていた。母と妻、息子夫婦、孫二人の七人家族。人口が少ない村の将来を思えば、合併はやむを得ないと考えているが、中学生の孫は「生まれ育った村の名前が消えるのは寂しい」と合併には反対だという。

 浜野さん方に象徴されるように一つの家族のようだった村全体が今、国が進める合併の二文字で揺れている。

 村の混乱は菅野典雄村長が九月七日、南相馬合併協議会(合併協)からの離脱を表明したことから始まった。村議会は離脱議案を否決し、十二日に告示される村長選には山田猛史村議会副議長が合併推進の立場で立候補することを表明。三期目を目指す菅野村長との一騎打ちが確実だ。

 村では合併の賛否を問うため昨年十二月に住民投票を実施し、反対が有効投票の52・67%を占めた。しかし、菅野村長は条件付きで合併協に踏み出す考えを示し、村議会の了承を取り付けた経緯がある。最終結論をめぐり合併問題が政治問題にまで発展した形だ。

 菅野村長は「考え抜いた末の決断。村民のために何としても村を残したいと思った」と自立を選択した理由を説明する。その上で「(合併を推進する国の)特例措置というニンジンに目を奪われてはいけない。今は村の質を高める時代だ」と村の自立に自信を見せる。

 一方、「合併やむなし」とする山田副議長は「合併協では村の要望の多くが受け入れられている。この後、合併といっても村の言い分は通らなくなる」と危機感をあらわにする。「合併による分権分散型の地域づくりこそが、村民の生活を守る道だ」と主張する。

 二人の言い分は平行線をたどり、対立のはざまにある村民は選挙戦を間近に控えて戸惑いを隠せない。

 「なぜ、離脱したのか、きちんとした村民への説明がない」。合併に関する地区懇談会の開催などで村に協力してきたベテラン行政区長(57)は村長の態度を豹変(ひょうへん)ととらえ、いまだ納得がいかない様子。建設業の男性(56)は「合併すれば他市町の業者が“地元”として入札に参加してくる。合併すれば死活問題。みんな同じ考えだ」と自立を求めた。

 「静かだった村が、ごちゃごちゃだ」。村内で飲食店を営む男性(55)はため息をついた。長年、地区の集会所を管理してきた女性(72)は「もう合併の話はしたくない。話すとけんかになってしまう」と首を左右に振った。九月三十日で昭和三十一年の大舘、飯曽両村の合併から四十八年。当時を知る元村職員の男性(67)は「村が一つになり、平穏に暮らしてきた。誰が合併なんて言い出したんだろう」と問いかけた。
 南相馬合併協議会 各市町村議会の議決を受けて今年2月13日に飯舘、小高、鹿島、原町4市町村で設置。予定通り合併すれば人口は約8万2千人、面積は628平方キロの対等合併による新市となる。名称は「ひばり野市」に決定した。来年9月26日に誕生を目指している。
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