二十一世紀に入り、電力を取り巻く環境が大きく変化しようとしている。原子力発電では、プルサーマル計画という核燃料の再利用システムが当初目標より大幅にずれ込み、スタートのめどすら立っていない。国策とされる再利用システムが立ち往生している背景には、現在の態勢に対する不信感とともにエネルギー政策に、より積極的にかかわろうとする立地県の意識の高まりがある。国民生活の基盤となるエネルギー政策の揺れを立地県から問い直す。

 

31

普遍の課題 地域振興

Jヴィレッジ効果大−全県に波及の努力を

(5月26日(日)掲載)

 原子力、火力発電所が立地する相双地方の将来をめぐって県や地元が揺れている。原発の運転が始まってから三十年余り、住民は日本の電力供給を担っている自負を持ちつつ、発電所の立地による恩恵に豊かさを求めてきた。そして今なお、新増設への期待は大きい。県は国や電力会社の事情に左右される振興策をけん制し始めているが、県も地元も展望をまだ描き切れていない。発電所との新しい共生の道は見いだせるのか―。国、県、電力会社の出方をうかがいながら、模索する住民や自治体を追った。
 サッカー・ワールドカップ(W杯)の優勝候補、アルゼンチン代表がJヴィレッジ(楢葉、広野町)でキャンプを始めてから一週間余り。両町には国内外のファンや報道陣が詰め掛け、W杯ムードが日に日に盛り上がっている。
 「期待通り、立派な施設に育った。地元への経済的、人的な効果は計り知れない」。楢葉町企画課長などを務め誘致段階から携わった猪狩征一社会福祉法人広葉会設立準備室長は、地権者の合意取り付けなどに奔走した数年間を振り返った。
 東京電力がJヴィレッジの建設構想を明らかにしてから約八年、オープンから約五年が過ぎた。
 十面のピッチ(コート)をはじめ、スタジアム、宿泊施設、フィットネスジム、プール…。東電が新たな地域振興策の柱として約百三十億円をかけて建設し、県に寄付した。地域住民は親しみを込めて「J」の愛称で呼び合う。
      ◇
 発電所立地地域の振興を目指した国からの電源三法交付金には使い道に制約があり、その大半は道路や文化ホールなどの「箱もの」に限られてきた。「公共施設は整ったが、地域振興が図られたという実感はわかなかった」。町村の担当者や住民の偽らざる気持ちだ。
 「サッカーのナショナルトレーニングセンターをつくりたい」。平成六年夏、東電が県や双葉郡の町村に構想を提案したとき、世界のサッカー人気を知っていた猪狩室長はこれまでの振興策にはない可能性を感じた。「サッカー関連の大規模な施設ができれば、国内外を問わず多くの交流人口が生まれる」 昭和四十年代、浜通り地方は炭鉱の相次ぐ閉山で失業者があふれた。その労働力を原子力発電所や火力発電所の建設が吸収した。そして今、新たな地域振興拠点のJヴィレッジが世界の注目を集めている。
 サッカーも含め会員登録した約八百人が最新のフィットネスジムやプールを利用している。周辺の旅館・ホテルや観光施設の入り込みも増えた。
 「多くの失業者で暗く沈んでいた昭和四十年代を思うと、古里は夢のような場所になった」。猪狩室長の言葉には自然と感慨がこもる。
   ◇   ◇
 Jヴィレッジが構想の段階から掲げたW杯でのキャンプ誘致は、アルゼンチン代表という花形チームで実現した。だが、W杯以後の「宴のあと」を懸念する声も出始めている。東電からJヴィレッジに出向中の小林一介取締役企画営業部長は「施設を訪れる年間約五十万人を、浜通りはもちろん県内各地に向ける努力が一層、大切になる」と課題を挙げる。
 アルゼンチン代表は決勝まで勝ち進んでも、七月上旬にはJヴィレッジを離れる。

©福島民報社2002


Copyright(C) 福島民報社 All Rights Reserved.