
古民家建材を使った西会津町の二世帯住宅に、コメが炊きあがる香りが漂う。減農薬米を栽培する橋谷田淳(36)が最もくつろげる場所だ。妻幸美(35)、長男元気(5つ)、長女優(3つ)がおいしそうに頬張る。家族との食卓が、建築業の道をあきらめ、農家として歩みだした自分自身の支えになっている。
父、義一(72)から八ヘクタールの農地を受け継いだ。今は貸していた農地も戻り、十二ヘクタールでコメ作りを営む。その大部分で無農薬、減農薬に取り組み、約一ヘクタールでコシヒカリの特別栽培米「会津継承米 氏郷」に挑戦する。
氏郷は会津若松市のコメ販売を主とする食関連企業「会津食のルネッサンス」のブランド米だ。東京都銀座の老舗すし店「銀座久兵衛」にも納められる。コシヒカリは食味がいいものの、粘り気が多いため、すしには適さないとされていた。食味を保ちつつ、しっかりした張りがある氏郷は名店にも認められている。
《いいコメは、いい所に売れる-》
昨秋、氏郷を栽培して四回目の収穫を迎えた。有機肥料を与え、土壌から変えていく。病害虫への対応など、農薬を使う慣行農法にはない苦労がある。本当に肥えた水田は微生物が活動し、土の粒子が細かい。水を張るとトロッとし、埋まった足がすぐ抜ける。
「満足できる物を作ろうと思えば通常の倍の手間がかかる」。その分、会津食のルネッサンスは相場より高い金額で買い取ってくれる。
多くのコメが高温障害に見舞われた昨夏の猛暑は、氏郷ならではの栽培手法がうまく働き、被害を最小限に抑えることができた。五月に田植えをする農家が大多数を占める中、氏郷は六月に田植えをし、十一月に刈り取るという昔ながらの栽培法をとる。稲穂に実が入る登熟期が最も暑い八月からずれるため、高温の影響を受けにくい。
氏郷の生産者代表として出品した全国規模の「お米日本一コンテスト」で約四百点の中、二年連続で上位約三十点に選ばれた。
《まだまだ上がいる。もっとうまいコメを作りたい-》
「炊飯器を開けると、一粒一粒がピカピカ光っているんです」。幸美が夫のコメの出来栄えに顔をほころばす。自分のコメが家族の、消費者の笑顔を生む。それが一番誇らしい。(文中敬称略)
※慣行農法 農薬や化学肥料の使用量や散布回数などについて多くの生産者が行う一般的な栽培法で、収量が多い。対極的なものとして、収量よりも自然への影響などに配慮して農薬を全く使用しない有機農法がある。
