ふくしまを詠む 黛まどかの俳句紀行

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百花繚乱の夢開花 花見山 福島市

花見山園主の阿部さんと懇談する黛さん
阿武隈川の綺羅も加へて花明り

 福島に桃源郷があるという。福島の桃源郷こと「花見山公園」は、福島市の南東に位置する丘陵で、そびらに雪の残る吾妻連峰を従えて、花の盛りを待つばかりとなっていた。

 御年93歳になられる花見山の主阿部一郎さんが、早咲きの桜とまんさくの出荷に追われる中、園内を案内してくださった。

 阿部さんは16歳で父と共に生け花用の花木の栽培を始めたが、20歳で日中戦争に応召。激戦地重慶周辺で4年間を過ごし、多くの戦友を失うも無事帰還した。当初はなぜ自分だけ帰ってきたのだろうと苦悩したという。やがて山全体を花で埋め尽くしたいという夢が膨らんだ。戦争で苦しい経験をした人を花で元気づけたいと思ったからだ。まだ重機がない時代のこと、鍬[くわ]一本で雑木山を開墾しては植樹をしていく毎日が続いた。しかし戦地での日々を思えば少しも苦ではなかったと阿部さんは振り返る。めいっぱい働いても一人で開墾できる面積は1日にわずか3坪程。それでも百花繚乱[りょうらん]の山を思い描いては切り拓いた。「夢は見るものではなく行動するもの。でなければ寝ながら見る夢と同じ」と阿部さんは言う。阿部さんの話に相槌を打つかのように小鳥の囀[さえず]りが空からこぼれ、臘梅[ろうばい]などの芳しい花の香りが風に乗って漂ってくる。家族で一鍬一鍬育んだ夢は少しずつ形になり、昭和34年に「花見山公園」として無料で開放されることになった。

 花を見にやってきた人が次々に阿部さんにあいさつをしては通り過ぎていく。この山ではすれ違う誰もが笑顔だ。昨年は木の養生のために一時的に閉鎖したが、東日本大震災の後も花見客は絶えることはない。

 「今の人は求めるばかりだけれど、花は何も求めないからね」。求めているばかりの人生では結局は満たされない。その現代人の寂しさを花が潤してくれるのではないかと阿部さんは言う。「戦場での4年間の苦しみを生かさなければと山を開墾した。震災も同じ。この苦しみを生かさなければ。福島はそういう時期にきている」。穏やかな瞳の奥には固い決意が窺[うかが]えた。花と共に歩んできた80年。人生観も何もかも花から教わったという。阿部さんの言葉の一つ一つが、花の声のようにも聞こえた。

 今年も多くの人が花に癒やされ何かを教えられて帰っていくのだろう。囀りを抱き、人々を抱き、その苦しみや悲しみを抱いて、花明かりを尽くす花見山である。


花守の遠まなざしに花語る


■2年ぶり全面開放

【花見山】

 花見山公園(約5ヘクタール)を中心に植えてある花木は1万本以上に上る。東京電力福島第一原発事故の影響で客足が一時減った。昨年は花木の養生のため、昭和34年の一般開放以来初めて入場を制限したが、風評の払拭[ふっしょく]を願い、今春、2年ぶりに全面開放された。桜の最盛期は4月中旬。4月29日まで周辺道路の交通規制が実施される。詳しくは花見山情報コールセンター 電話024(526)0871へ。

※花明り 桜の花が咲き満ちてまるで明かりを灯したように周囲が明るく感じられること。

■まゆずみ・まどか

 2002年「京都の恋」で第2回山本健吉文学賞受賞。近著に「引き算の美学」(毎日新聞社)、句集「てっぺんの星」(本阿弥書店)、編著「まんかいのさくらがみれてうれしいな~被災地からの一句」(バジリコ)など。

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