ふくしまを詠む 黛まどかの俳句紀行

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安積山 郡山市 山や川へ親愛の情

万葉に思いをはせ、安積山公園を訪ねる黛さん
色変へぬ松の統べたる安積山 
※色変へぬ松 秋、他の木々が紅葉するなかで、松が緑のままでいることを賞すること。)

 歌枕とは古歌に詠み込まれた各地の名所を言う。分けても白河以北は異界の地として、憧れと畏怖の念を以て都人に尊ばれ、たくさんの歌が詠まれた。藤原実方、能因法師、西行のように実際に足を運んで詠んだ人もいるが、その多くは古歌からイメージを膨らませて詠んでいる。
 白河の関、会津嶺、安積山、安積の沼、安達太良山、阿武隈川、安達が原、勿来の関、真野の萱原など、福島県内には歌枕が多い。殊に恋の歌枕が多いのは、「あ」で始まる地名が多いからではないだろうか。阿武隈川の「あぶ」が「逢ふ」に、会津嶺の「あひ」が「逢ひ」を連想させ、掛詞を形成する。また信夫は「偲ぶ」に通う。遠く都を離れたみちのくで、このような地名に出会った旅人が俄かにいとしい人を偲び、郷愁を募らせて、溢れる思いを歌に注いだのかもしれない。それらの歌を伝え聞いた人々は、31文字というわずかな情報を頼りに未知の地へ思いを馳せ、さらに歌を詠んだ。千年以上続いてきたその伝統の上に歌枕は存在する。
 中通りを背骨のように流れる阿武隈川はそれ自体も歌枕だが、周辺にも歌枕が点在している。

安積山影さへ見ゆる山の井の浅き心をわが思はなくに
    前采女『万葉集』

 「安積山の影が映って見える山の井のような浅い心であなたを思ってはいません」。葛城王が陸奥国に下向した折、国司のもてなしの悪さに立腹。しかし一人の采女が即座にこの歌を詠んで王の怒りを解いたという。歌が国司の窮状を救ったのだ。
 郡山市に安積山を訪ねた。今は整備されて安積山公園となっている。どんな山かと思えば松林の丘といった感じだった。実は歌枕の多くは所在地がわからなくなっており、実際行ってみても大した名所でないことが多い。しかしその場に佇んで歌を口ずさめばたちまち千年前に心が旅をし始める。落ちていた新松子を掌に頂まで上った。

会津嶺の国をさ遠み逢はなはば偲ひにせもと
紐結ばさね
詠み人知らず『万葉集』

 旧奥州街道を北上すると左手に会津嶺が、正面左手に安達太良山が聳え、幾たびか阿武隈川と交差した。今のように視界を遮るものが無かった時代、旅人はもっと遠くを見つめ、山と語らい、川と親しみながら歩いたことだろう。もともとの歌は単に掛詞や言葉遊びではなく、山や川への親愛の情であり、土地褒め、神への挨拶であったのだと思う。
秋の夜の月はのどかに宿るとも阿武隈川に心とまるな藤原実清
 今年の仲秋の名月は9月19日。古歌を重ねながら阿武隈川に映る月を眺め、いにしえ人と心を通わせるのも一興だ。

■桜やツツジの名所
 安積山公園は旧奥州街道沿い、郡山市日和田町にある。桜やツツジの名所でハナカツミ(学名=ヒメシャガ)も植栽されている。山の井清水は隣接する日和田野球場の駐車場側。
 問い合わせは郡山市観光協会 電話024(924)2621へ。

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