ふくしまを詠む 黛まどかの俳句紀行

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成木責 昭和村 豊作願う心と感謝

雪の中、兵吉さんは松葉で団子の茹で汁を木にかけてやった


 責められし木に月光の降りやまず

 「成るか成らぬか、成らねば切るぞ」。小正月の行事に柿や栗、桃、梅などの果樹を責めて、その年の豊作を祈る風習がある。斧や鎌、鉈[なた]などを持った人が「成るか成らぬか」と幹に少し切り目を入れて木を脅し、もう一人が木霊に代わって「成ります、成ります」と答える。豊熟を約束した木には小豆粥(地方によって異なる)などを疵に塗ってやる。戦前までは日本全国の農家で行われていたというこの行事も、最近では歳時記に見るのみで実際にはほとんど行われなくなった。

 奥会津の昭和村にまだこの風習を大事にしている家があると聞き、小正月に羽染兵吉さんを訪ねた。軒下の氷柱と凍み大根をくぐってお宅に入ると、"だんご差し"が始まっていた。米粉で作った16個の大きな団子のほかに、大判小判、米俵、茄子やきのこなどを米粉で作りみずの木に差してゆく。みずの木を使うのは火伏せの意味だと言う。かつて大火があったこの地域では"どんど"は行わず、粥の代わりに団子を茹でた汁を成木責に使うのが特徴だ。


 責むるとも睦み合ふとも成木責

 亡きお父様の手作りの蓑[みの]を羽織り、樏[かんじき]を履いて兵吉さんが外に出た。縄で括った横槌[よこづち]を引きずりながら、雪を掻き分けて一本の木に向かっていく。横槌は虫除けのお呪[まじな]いだそうだ。「成るか成らぬか、成らぬならこの鉈でぶった切りますよ」。兵吉さんが鉈で幹に少し疵をつける。「成ります、成ります」の声に続いて兵吉さんは松葉で団子の茹で汁を疵口にかけてやった。責めているというよりは睦み合っているという感じで、あたたかく微笑ましい。本当に豊作をもたらすのか科学的に実証されているわけではないというが、一本一本の木に精霊が宿っていると信じ、人々が果樹に感謝しながらくらしてきたことが窺える。


 成木責の後、兵吉さんが編んだ籠と奥さんが織ったからむし織を見せていただいた。雪がしんしんと降る中、二人が黙々と作業をする光景が彷彿とした。一目一目に春を待つ思いが詰まっている。


 その夜は近くの玉梨温泉に宿を取った。7時に始まる地元の賽の神(どんど)に宿のご主人が連れていってくださることになった。雪原の真ん中に組まれた賽の神の周りに村人が集まり始めた。7時になると一斉に恵方を向いて拝み、点火をした。一番下に敷かれた豆殻がぱちぱちと良い音を立てた。旅人の私たちにもお神酒やつまみが振舞われた。瞬く間に火は藁をかけ上がり、途中でどさっと大きく崩れた。「今年は良い崩れ方をした!」男たちは上機嫌だ。降る雪の向こうに月がほのと浮かんだ。その夜はかけ流しの炭酸泉に雪で冷えた身体をあたため、宿のご主人もいっしょに雪見酒を楽しんだ。


 成木責も賽の神もくらしの中で繰り返し大切に行われることに意味があるのだろう。人々が信仰するかぎり神は訪[おとな]いその地を護るのだと、奥会津のくらしにあらためて思った。


※成木責
 果樹を脅して責め、その年の豊作を祈る小正月の行事。傍題として「木責」「果樹責」「木を囃[はや]す」など。


 まゆずみ・まどか 2002年「京都の恋」で第2回山本健吉文学賞受賞。近著に「引き算の美学」、句集「てっぺんの星」、編著「まんかいのさくらがみれてうれしいな~被災地からの一句」など。携帯メールマガジンは無料配信中。( http:madoka575.co.jp/㎜/ )

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