ふくしまを詠む 黛まどかの俳句紀行

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うつくしま花行脚 長い冬耐え健気に

総身に紅の蕾を纏った滝桜。枝先が少しほころんでいた=三春町

追ふやうに追はるるやうに花行脚
 ※花行脚...桜を求めて巡る旅。桜花巡礼。
 ※注 笑まふ...花が咲くこと。

 「4月半ばであれば、どこかしらで咲いていますから」。桜の開花状況を問い合わせると、そんな返事がきた。福島の桜前線は幾重にも蛇行しているので、他県に比べて花期が長いのだという。

 言われるままにひとまず郡山を目指すと、満開の桜が待っていてくれた。市内の開成山公園には、安積原野の開拓の際に植えられた桜の古木が並んでいる。

  咲き満ちてこぼるゝ花もなかりけり  高浜虚子

 月夜の公園を歩くと、満開にしてひとひらだに散ることのない盛りの桜を詠った名句が口をついて出た。太い幹が分れたり捩[よ]じれたりしているのは、長い歳月風雪に耐えてきた証だ。

 翌朝、三春の滝桜を訪ねた。総身に紅[くれない]の蕾を纏[まと]った滝桜は、てっぺんの辺りと地面に近い枝先が少しほころんでいる程度だった。滝桜の周りは花見客だけでなくスケッチや写真撮影に精を出す人であっという間に人垣ができた。

 滝桜に限らず三春町にはそこここに枝垂桜がある。かつて三春藩では人々が積極的に枝垂桜を植えたという。こうして三春は固有の美しい景観をも持つことになった。枝垂桜によって自ずと藩の領地を示すこともできただろう。

  天に触れ地に触れ笑まふ滝桜

 夜の森の桜が見頃だという情報が入り、一路浜通りへと車を走らせた。富岡町の誇りの一つでもあった総長2・5キロの夜の森の桜並木。現在は居住制限区域の300メートルほどが観桜を許されている。一見何事もなかったかのように見える町並みだが家々に人影はなく、除染作業の人声だけが聞こえてきた。この地に生まれ育った人はもとより桜に魅せられてこの地に居を構えた人も少なくないだろう。落花を浴びながら並木道を歩いていくと、立ち入ることを禁じられた道の果てに陽炎が見えた。陽炎は近づくと遠のくので別名「逃げ水」と呼ばれる。放射能との闘いもまた近づくと遠のく逃げ水のように思えた。

 花行脚の最後に福島市の花見山を訪ねた。昨年お話を伺った花見山の主阿部一郎さんは昨年9月に他界され、花見山は阿部さんのいない初めての春を迎えていた。「山にあるものはすべて父が残したもの。父が好きなものばかりですから...」と後継者の一夫さん。阿部さんが生涯をかけて丹精した花々は今年も見事に咲き、訪れた人に喜びと癒しを与えていた。阿部さんの思いはご家族にそして花に引き継がれている。

 「自然は立派やね...(中略)...時が来たらば、ちゃんと花が咲き、褒められても褒められんでもすべきことをして黙って去ってゆく...」。長い冬を耐え健気に咲く福島の桜に、宮崎奕保禅師の言葉が甦った。一本桜、枝垂桜、桜並木、花の山...それぞれの地で桜はふんばって咲いていた。「雪うさぎ」を湛えた吾妻山を車窓に、私は花の福島を後にした。

 翌日、夜の森の桜の下で婚礼衣装に身を包み記念撮影するカップルのことが報道された。そこには陽炎ではなく福島の未来を担う若い二人が春光を返してしっかりと立っていた。

■経歴
 まゆずみ・まどか 2002年「京都の恋」で第2回山本健吉文学賞受賞。近著に「引き算の美学」、句集「てっぺんの星」、編著「まんかいのさくらがみれてうれしいな~被災地からの一句」など。携帯メールマガジンは無料配信中。(http:madoka575.co.jp/mm/)

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