ふくしまを詠む 黛まどかの俳句紀行

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編み組細工 三島町 知恵の結晶を紡ぐ

生活工芸館で五十嵐さんが編み組細工について説明してくれた
 編みかけの籠がにほへる夜長かな

※季語...「夜長」 秋の夜。夏の短夜とくらべ、秋は夜がめっきり長くなったように感じられる。

 只見川に沿って山並を車で抜けていくと、時折ぽっと明かりを灯したかのように集落が現れる。庭先に秋桜、鶏頭[けいとう]、野菊などを咲かせ、豆筵[むしろ]をひろげた家々。奥会津の集落には、人々の暮らしの有りようが自ずと滲み出ている。

 この地方では縄文の太古から冬の農閑期になると草木で籠[かご]や笊[ざる]を編んできた。またたびやヒロロ(ミヤマカンスゲ、オクノカンスゲ)、あけびや山ぶどうの蔓[つる]などを、夏から秋にかけて山で採取し乾燥させておく。水切れのよいまたたびは米研ぎや野菜を洗う笊に、丈夫なヒロロや山ぶどうは山仕事に使う籠などに用いる。編み方は用途により異なるという。編み組細工の一目一目が、暮らしのなかで紡がれてきた知恵の結晶なのだ。
 目黒政栄さんは、納屋の2階でまたたびを編んでいた。晩秋、雪が降る前に山に入って採ったまたたびは皮を剥ぎ、割き、扱[こ]いて乾燥させる。編みあがった笊は「寒晒[かんざら]し」することで強度が増し、より白くなるそうだ。またたびはしなやかで手に優しく、丈夫なので何十年も使えるという。人に喜んでもらえることが何より嬉しいと目黒さんは顔をほころばせた。

 浅岐集落に暮らす角田キイ子さんはヒロロでバッグを作っている。玄関を入ってすぐの橡[とちのき]の板間がキイ子さんの仕事場だ。ヒロロだけでなく野からむし、赤苧[あかそ]、茗荷[みょうが]等も使う。おっつめ棒(毛むしり)で編み目を整えながら丁寧に編んでゆくと、草の香が部屋に溢[あふ]れた。草木の色や風合いの違いによって籠に美しい模様が生まれていく。頭上の太い梁は冬の雪の多さを思わせた。「昔は車座で話しながら作りました」。キイ子さんのバッグを愛用する人は全国にいる。買った方のほとんどが手紙をくれるそうだ。品物を売ったらおしまいではなく、その後に作り手と使い手の間に交流がはじまるのだ。8月の土砂災害で連絡が取れなくなった広島のお客さんのことをキイ子さんはしきりに案じていた。

 帰り際、またたびの四ツ目笊に干された山栗を軒下に見つけた。飴色に古びた笊は亡き姑が編んだものだという。「とても頭の良い人でね...」。笊に目を落としたままキイ子さんがつぶやいた。

 三島町生活工芸館に五十嵐三美さんを訪ねた。もともとは生活用具として自分たちのために作っていた編み組細工。五十嵐さんたちはこれを伝統的工芸品として産業にし、技術の継承と地域の活性化を推し進めてきた。今や「三島ブランド」として全国に名を馳せている。年に一度の「ふるさと会津工人まつり」には、人口1800人の三島町に2万人が集まるという。初めは「楽しみ」だったものづくりが、評価されることで「喜び」となり、今ではお年寄りの「生きがい」となっていると五十嵐さん。「三島だけでなく会津地方全体に広め、高齢化対策にしたいのです」と展望を語られた。

 帰途只見川を一望できる高台で車を停めた。奥会津の集落は、秋の日溜りのように懐かしさと温もりを湛えていた。

※三島町の編み組細工
 奥会津三島編組品振興協議会では編み組細工などの生活工芸品の制作技術向上のために年間3回の展示・販売会を開いている。3月の全国編み組工芸品展・三島町生活工芸品展、6月のふるさと会津工人まつり、10月の会津の編み組工芸品展がある。詳しくは三島町生活工芸館 電話0241(48)5502へ。

■略歴
 まゆずみ・まどか 2002年、句集「京都の恋」で第2回山本健吉文学賞受賞。オペラ「万葉集」「滝の白糸」の台本執筆、福島県の応援歌「そして、春~福島から世界へ」の作詞なども手掛ける。近著に「うた、ひとひら」、「引き算の美学」、句集「てっぺんの星」など。公式ホームページhttp://madoka575.co.jp


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