ふくしまを詠む 黛まどかの俳句紀行

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会津伝統野菜 会津若松市 命を結び、人を結ぶ

長谷川さんが育てた小菊南瓜はみずみずしく生命力にあふれている
小菊南瓜こつんと会津晴れ上がる

 店頭で野菜を買う時、産地や価格は気にしても、種のことまで考えることは通常まずないだろう。今私たちが口にする野菜のほとんどが、異なる特性を持つ種を交配させたF1種から栽培されている。品種改良しているため扱いやすく、世界中で主流だ。野菜の工業化、グローバル化が世界を席捲しているのだ。

 そんな中、会津で生まれ根付いた伝統野菜を継承しようと奮闘している人たちがいる。会津若松市に生産者の長谷川純一さんを訪ねた。亡き父から農業を引き継いだ長谷川さんは7年前に『会津農書』に出会う。寒冷降雪地帯である会津でどのように稲や野菜を育てるか。300年以上前の先人たちの経験と知恵が詰まった一冊だ。しかし高度経済成長期、全国で在来種の野菜は置き去りにされ、生産性が高く効率の良いF1種に取って代わられた。会津も然りであった。長谷川さんは先ず70年間絶滅していた余蒔[よまき]胡瓜[きゅうり]を復活させる。

 畑に案内していただくと、余蒔胡瓜が収穫期を迎えていた。土づくりにもこだわり、化学肥料や除草剤を一切使っていない。●[も]ぎたての胡瓜を畑でいただいた。歯触りがしなやかで甘い。長谷川さんが胡瓜を真ん中でぼきりと折ると、切り口から粘り気のある透明な液が溢れた。今度は切り口を合わせるとまるで接着剤で付けたかのように見事にくっ付いてしまった。目を瞠[みは]る私に「これが生命力ですよ」と長谷川さん。蜜蜂が胡瓜の花を次から次へと移っていく。蜂と風が花粉を運んでくれるのだと目を細めた。
「上から見ると本当に菊の花のように見えるでしょう?」。会津小菊[こぎく]南瓜[かぼちゃ]は小粒で皮が固いが実はねっとりとして甘いそうだ。戊辰戦争で籠城した折に、貴重な食糧となって会津軍を支えたという逸話が残る。「伝統野菜にはそれぞれに歴史や物語があるのです」。伝統野菜が消えれば、それらにまつわる歴史や文化も同時に消えることになる。

 会津伝統野菜は奥田政行氏や野崎洋光氏といった料理人に評価され、各レストランでオリジナル料理となり提供されている。また、子供たちに伝えていくため、学校給食に野菜を提供し、体験農業を受け入れ、高校で後継者の育成にもあたっている。

 グローバル化は均質化を生む。世界中どこへ行っても同じような店が建ち、誰もが同じような服を着て、同じものを食べる。だからこそローカルの独自性が大切だ。そこに行かなければ見られない風景、祭、食べられないもの。本物を守っていれば、アクセス手段に恵まれたこの時代、人はそれらを求めてどこにでも足を運ぶ。

 伝統野菜は地域に根ざし、その気候風土の中で残ってきた品種だ。雪下野菜は、厳しい寒さに耐えて旨みが凝縮される。会津そのものと言っていい。種を採取しないと翌年栽培できないため、南瓜などは購入者に頼んで種を送り返してもらっている。「自分も伝統野菜作りに参加しているようで嬉しい」と協力してくれる人が多いそうだ。伝統野菜作りを通して人と出会えることが何よりの喜びだと長谷川さんは日焼けした顔を綻ばせた。一粒の「種」が実を結び、命を結び、人を結ぶ。そして会津の昔と今を結んでいる。


■経歴
 まゆずみ・まどか 2002年、句集「京都の恋」で第2回山本健吉文学賞受賞。オペラ「万葉集」「滝の白糸」の台本執筆、福島県の応援歌「そして、春~福島から世界へ」の作詞なども手掛ける。近著に「うた、ひとひら」、「引き算の美学」、句集「てっぺんの星」など。公式ホームページhttp://madoka575.co.jp

※●は手ヘンに腕のツクリ

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