ふくしまを詠む 黛まどかの俳句紀行

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からむし織昭和村 雪と人紡ぐ伝統美

織姫1期生の舟木さん。からむし織と昭和村に魅せられ、伝統の技を伝えている

機織の春待つ音となりにけり

 「雪に糸となし 雪中に織り 雪水に濯ぎ 雪上に晒[さら]す 雪ありて縮あり 雪こそ縮の親と言うべし」。鈴木牧之が書いた『北越雪譜』の有名な一節である。
 縮や上布の原材料はからむし(別名苧麻[ちょま])というイラクサ科の多年草で、からむし織は日本最古の織物と言われている。ところが化学繊維の普及や生活様式の変化で需要が減り、本州でからむしを継続的に生産しているのは昭和村だけとなった。昭和村のからむしは大変良質で、小千谷縮や越後上布などの高級品にも使われている。
 村ではからむし織の技術を伝承するため、1994年に「織姫制度」を創設。からむし織と山村の暮らしに関心を持つ女性を全国から募った。織姫たちは約1年間の研修期間にからむしの栽培から苧引[おひ]き、糸作り、織りまで一連の工程を体験する。修了生は2015年の春に100人を超え、そのうちの30人は今も村に残り生活している。
 織姫1期生の舟木容子さんは埼玉県の出身。20歳の時に全国紙で織姫の募集を知り応募した。研修終了後もからむし織を続けるために村に残り、村の男性と結婚して家庭を持った。お年寄りの仕事は何でも丁寧で仕上がりが美しいと舟木さんは言う。「"ひと手間"の意味をよく解っているお年寄りがすごく格好良かった」。掃除、料理、教育、福祉、セキュリティ...今や都会の生活は、ひと手間どころかあらゆる手間を対価を支払って他人に委ねている。
 二十四節気の小満の日(5月21日頃)、昭和村では畑焼を行う。からむしの発芽の時期を揃え、成長具合を整えて質を均一化するためだ。同時に害虫の駆除もできるし、灰は肥料になる。収穫は7月の土用頃からお盆まで。刈り取られ選別されたからむしは繊維を取り出す苧引きの作業に入る。ここからは女性の出番だ。苧引きには熟練を要する。「苧引き具」の刃の当て方や角度、力加減を一枚一枚のからむしの状態によって変えなくてはいけない。「それをおばあちゃんたちは何気なくやっている」。乾燥させた繊維を細かく裂き、指先だけでつないで糸にするのが苧績[おう]み。帯1本分の糸を績むのに約2カ月かかる。さらに糸車で糸に撚[よ]りをかけて、織りに入る。からむしは乾燥に弱く適当な湿度がないとすぐに切れてしまう。だから苧績みも織りも雪の季節に行う。まさに「雪に糸となし 雪中に織り」なのだ。昭和村は有数の豪雪地帯で、1年の半分は雪が降り、2メートル以上積もる。「雪が積もると色も音もなくなるんです」。舟木さんは糸を績む時間が一番好きだと言う。糸を績んでいる時は頭の中がからっぽになる。一心に績んでいるといつしか籠に糸が溜まっていく。雪明りの村は繭の中を思わせた。

■糸績みの 婆を冬日の 離れざる
 からむしの出来は天候に左右される。生育が揃っていないとむらが出るのだそうだ。今年の暖冬はからむしに影響しないのだろうか。「でも、仮にむらが出てもお年寄りはこう言うんです。からむしがそうなりたかったんだべ...」。村の暮らしは力を抜く瞬間も作ってくれると舟木さん。雪に埋もれた昭和村にそろそろ地機の音が聞こえてくる頃だ。=4月からは随時掲載=


 まゆずみ・まどか 2002年、句集「京都の恋」で第2回山本健吉文学賞受賞。オペラ「万葉集」「滝の白糸」の台本執筆、福島県の応援歌「そして、春~福島から世界へ」の作詞なども手掛ける。近著に「うた、ひとひら」、「引き算の美学」、句集「てっぺんの星」など。公式ホームページhttp://madoka575.co.jp

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