ふくしまを詠む 黛まどかの俳句紀行

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までい着飯舘村 村の文化 心支える

全国から寄せられた着物を「までい着」にする取り組みを説明する佐野さん(左)

帰ろうとすればかなかなしぐれかな

 2011年の秋、飯舘村の松川仮設第一住宅で、村の女性たちが中心になってある活動をはじめた。会の名前は「いいたてカーネーションの会」。古い着物の生地をリメイクした「までい着」で話題になっている。
 「までい着」の発案者で会長の佐野ハツノさんにいきさつを伺った。避難当初仮設住宅の管理人をされていた佐野さんは、仮設に暮らすお年寄りが日に日に元気を無くしていく様子を目の当たりにし、なんとか生き甲斐を見つけられないかと思案していた。引き籠もりがちなお年寄りに声をかけて歩くうちに、一人のお婆さんがいつも着ている作務衣のような二部式の着物にふと目が留まった。そういえば村では昔から古くなった着物を仕立て直して綿入れや普段着にしてきた。飯舘村が理念として掲げてきた「までい」の文化だ。飯舘村の精神とも言えるこの二部式の着物を仮設住宅に暮らす女性の仕事として復活させたらどうだろう。佐野さんは村のお母さんたちに呼びかけ、カーネーションの会を結成。それまで名前のなかった着物に「までい着」と名前をつけ、お年寄りから作り方を教わった。会員は現在20人程。月に一度の定例会には、他の仮設住宅や借上げ住居から松川に集い、各自が作ってきた物を見せ合って意見を交換する。
 「この銘仙の花柄はキルトにしたらいいべな」「この生地はまでい着に最高だぁ!」。古着の仕分けのために、先日久しぶりにお母さんたちが飯舘村に集った。八和木地区の倉庫には、「までい着」の活動を知り全国から寄せられた古着が保管されている。古着を手に取り、お母さんたちはアイディアを出し合う。その声は避難中とは思えないほど明るく、笑い声が絶えない。「いただいた着物にはそれぞれの人生と思いが詰まっているはず。一枚も無駄にはできません」と佐野さん。評判が口コミで広がり、東北はもちろんのこと北海道や関東、関西からも注文が入る。「までい着」は厳しい避難生活を送る村のお年寄りや女性たちの心の支えとなり、それを買い求め身に付ける人たちに、「までい」の精神をさりげなく伝えている。
 仕分けが一段落すると、近くの公民館へ移動することになった。公民館へと向かう私たちの周りを、一匹の犬が後になり先になり尻尾を振って付いてくる。佐野さんの犬で、名前はムサシ。震災の一か月前に生まれたという。「ムサシ、今日は人がいっぱいいて嬉しいなぁ!」。ひと気のない村で、ペットたちは飼い主の帰りを待ち続けている。
 飯舘村では2017年3月31日に帰還困難区域を除いて避難指示が解除される予定だ。カーネーションの会は帰村後も解散せず、活動を継続することにしている。かつては同じ村に暮らしていても会う機会がなかったという女性たち。震災を機に繋がった絆は強い。「悪いことばかりでもないのよ」...一人が言うと、皆さん感慨深げに頷いた。計り知れないご苦労があるはずだが、お母さんたちの気持ちは来春に向けて前だけを向いていた。
「来春もまたここでお会いしましょうね!」。並んでいつまでも手を振ってくれるお母さんたちに、私も車中から手を振り続けた。=随時掲載=

※季語「かなかなしぐれ」...「かなかな」は蜩(ひぐらし)の別称。晩夏から秋にかけてカナカナ...と哀調のある声で鳴く。「かなかなしぐれ」は蜩が鳴きたてるさまを時雨の音に喩えている。


 まゆずみ・まどか 俳人。オペラの台本執筆、福島県の応援歌「そして、春~福島から世界へ」や校歌の作詞なども手掛け、国内外で活動中。「日本再発見塾」呼びかけ人代表、「公益財団法人東日本鉄道文化財団」評議員、北里大学客員教授。著書に「うた、ひとひら」他多数。公式ホームページhttp://madoka575.co.jp

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