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理容一筋、浪江で再起 「ヘアーカット髪優」店主の吉田ミサ子さん

笑顔で会話を交わしながら町民の髪を切る吉田さん

 東京電力福島第一原発事故に伴う避難指示が解除された浪江町酒田にある「ヘアーカット髪優(かみゆう)」。町内で唯一再開している理容店だ。年始を前に、町民が次々と店を訪ねる。心を込めて髪を切るのは店主の吉田ミサ子さん(69)。原発事故後、長年続けた仕事を辞めようと思ったこともあったが、家族の後押しで再出発を決意した。「もう後ろは見ない」。笑顔が絶えない店は、一筋の復興の光として町を照らす。

 「今年もあっという間だったね」。年末が押し迫った店内で、吉田さんと常連客の会話が弾む。「元気になる話をして、笑っていられるのが一番」と髪を切る手さばきは軽やかだ。
 16歳から理容の仕事一筋だった。1975(昭和50)年に独立し、浪江町内に店を構えた。今の店舗に移転・新装したのは2008年。移転先での営業も順調で、長女に仕事を継いでもらうめども立っていた。ささやかな幸せを全て奪ったのが2011年3月の東日本大震災と原発事故だった。
 避難で家族は離散し、先行きが全く見えない日々。「再開とか考えられる気力がなかった」と当時を振り返る。一時は、仕事を辞めて店を売ろうとまで思い悩んだ。そんな時、いわき市で理容の仕事をしている次女が言った。「楽しみながらゆっくりやったら。お母さんは仕事をしてたほうがいいよ」
 「頑張る」ではなく「楽しむ」。娘の言葉を聞き、もやが晴れるように心が楽になった。ずっと必死でやってきた。これからは自分の人生を楽しく生きていけばいいじゃないか-。気持ちが前向きになると再開の準備が一気にはかどった。

 浪江町に帰還しているのは11月末現在で440人。今年6月の再開当初は客が来ない日もたびたびあった。だが、徐々に口コミが広まり、今では一日に複数の客が訪れる時も多い。散髪が終わってもコーヒーを飲みながらしばらく雑談する。営業中を示すサインポールを見て、ひょっこり店に入ってくる知人とあいさつを交わす。吉田さんにとってかけがえのない時間だ。交流の拠点がまだまだ少ない浪江で、店は触れ合いを生む場所の一つとなっている。
 帰還している町民は「町内で髪を切れるようになって本当にありがたい」と感謝する。吉田さんは現在、避難先のいわき市から通うが、来春には町に戻り、営業日数を増やすつもりだ。「まだまだ元気にやっていくよ」。新たな道をしっかりと踏みしめ、前へ進む。

■営業日は水~土曜
 ヘアーカット髪優の住所は浪江町酒田字上原29の4。営業日は水曜日から土曜日。営業時間は午前9時から午後4時まで。予約、問い合わせは吉田さん 電話080(5568)9849へ。

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