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フクシマからの報告1(上)訓練生かされず 通信不良の中、事態悪化

3月18日午前、東京電力福島第一原発の全景を撮影した衛星写真(ロイター=共同)

 国内最悪の原子力発電所事故が進行している。東京電力福島第一原発は1号機から4号機までの原子炉や使用済み燃料プールが深刻な問題を抱える。巨大な地震と津波が引き金となった今回の事故。何重もの防護の壁が破られ、外部には大量の放射性物質が放出された。いまだかつてない事態に立地地域や行政、東電はどう向き合ったのか。(文中敬称略)

 東電の協力企業社員柴口典文は3月11日、定期検査中の4号機原子炉建屋にいた。原子炉下部にある再循環ポンプの部品を三人で点検中。立っていられないほどの揺れに襲われた。チェーンでつり上げた重さ600キロの部品を手で押さえたがブランコのように揺さぶられる。同僚二人に「すぐに出ろ」と叫んだ。

 ■震度6強■

 「落ち着いて行動してください」。中央制御室からの放送が聞こえた。建屋内は停電。非常用の明かりだけを頼りに出口に進むが白いほこりで視界がきかない。ロッカールームにたどり着いたが上着が見当たらない。裸の上に作業着を羽織る。20分近くかかってようやく外に出た。原発のある大熊町は震度6強を記録した。

 経済産業省原子力安全・保安院福島第一原子力保安検査官事務所長の横田一磨は4号機から500メートルほど離れた研修棟にいた。保安検査の会議が一段落ついた時、足元が大きく揺らいだ。

 「普通の揺れではない」。閉じ込められないよう反射的にドアに走り、扉を押さえた。「原子炉は大丈夫か」。稼働している1、2、3号機の原子炉は止まったのか。頭をよぎった。

 揺れが収まり、研修棟の外に飛び出すと、非常ベルが鳴り響いていた。東電の社員が事務本館から免震重要棟前に集まっている。東電の担当者が横田のもとに駆け付け「1号機から3号機まで、制御棒が働きスクラム(自動停止)した」と報告した。

 「オフサイトセンターまで」。横田ら三人の原子力防災専門官はタクシーに飛び乗った。五キロほど離れた大熊町にある国の緊急事態の拠点「原子力災害対策センター(オフサイトセンター)」に向かう車中、これからやるべきことを整理した。

 ■「異常なし」■

 福島第一原発から北西に約60キロの福島県庁。その時、知事の佐藤雄平は本庁舎二階の特別室でマスコミの取材に応じていた。すぐに知事室にとって返したが、危険と判断し外に出た。本庁舎近くの知事公館前に最初の拠点を設ける。「被害の確認後、1時間後に会議を開く」。原発や災害を担当する生活環境部長佐藤節夫に短く指示を出した。

 県庁西庁舎八階の原子力安全対策課。散乱した書類を片付ける間もなく、職員は原発の情報収集に入る。電話がつながりにくい。

 災害対策本部は施設の安全性から県自治会館に設けられた。原発の最初の報告は午後3時10分。東電福島事務所の社員が駆け付け「原発は異常なし」と告げた。午後4時、県災害対策本部会議が始まる。

 福島第二原発が立地する富岡町は午後3時半、町役場脇の町文化交流センター「学びの森」二階会議室で災害対策本部の活動を始めた。停電のため非常用ディーゼル発電機の音が響く。

 国、県を結ぶファクスはつながらない。第一、第二原発の情報が入るホットラインは生きていたが、届いたのは発電所の現状を記したファクスだけ。「今までの訓練が全然、生かされていない」。町長遠藤勝也のいら立ちが募った。

 ■大津波■

 4号機の原子炉建屋からようやく脱出した柴口は警備員が「大津波警報が出ています」と叫ぶ声に誘導され、高台に走った。船着き場の向こうには白波が見える。波は幾重にも堤防を超えてきた。重油タンクが5、6号機の方向にごろんと転がっていた。

 浪江町の漁師の男性は地震直後、船を守るため決死の覚悟で同町の請戸漁港を出港した。いくつもの津波を乗り越える。操船は容易ではない。沖に出た時、遠くに福島第一原発があった。高さ120メートルの排気筒の上部にまで津波のしぶきが上がっているようだった。

 東電は識者の意見を基に約5・7メートルの津波を想定して原発を設計していた。今回ははるかに超える14、5メートルの波が襲ったとみられる。海に面したタービン建屋地下などに設けられた非常用ディーゼル発電機13基のうち6号機の一基を除く12基が水没のため非常時の機能を失った。

 午後3時42分に第一原発は外部と非常用の全ての電源を喪失。原子炉を冷却する水が回らない状態に陥る。東電は所内の電源が確保できないとして国に原子力災害特別措置法の十条通報を実施。同4時36分には、原子炉への注水ができない重大な事故に該当する15条通報を行った。

 電源を失ったころ、オフサイトセンターに到着した福島第一原子力保安検査官事務所長の横田は目を疑った。室内は真っ暗。地下にあった非常用電源のポンプは壊れ、停電していた。電話も通じない。隣接する県原子力センターの一角を借りて関係機関との連絡と情報収集に入る。

 現地対策本部長となる経済産業副大臣池田元久は12日午前零時、ヘリと車を乗り継いでセンターに駆け付けた。福島第一原発の幹部は原発とオフサイトセンターを行き来し、状況を逐一報告。横田が原発を出た時とは現場は一変していた。

 「このままでは原子炉内の圧力が高くなる」「格納容器内の蒸気を抜くベントをしていいのか」。ベントは放射性物質の放出を意味する。「ベントしなければ格納容器が損傷する」。夜を徹した協議が続く。

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